
2021年初頭、米国株式市場を揺るがした「ゲームストップ株騒動」を覚えている人は多いだろう。ヘッジファンドが、衰退するゲーム小売チェーン「ゲームストップ」に対して空売りを仕掛けると、米国掲示板サイト「Reddit」の「Wall Street Bets」に集まった個人投資家がこれに反発し、大量買いで株価を暴騰させた。株価は一時500ドルを突破し、空売りを仕掛けていた有力ヘッジファンド「メルビン・キャピタル」は最終的に破綻に追い込まれた。
注目すべきは、この動きが単なる投資ではなく、「怒り」による集団行動だったという点だ。2008年の金融危機で税金投入によって生き延びた金融機関の不道徳さに対し、個人投資家たちは「ウォール街に復讐する」という感情に駆られていた。そしてその怒りは、ゲームストップ株を“投資先”ではなく“象徴的な武器”に変えてしまった。
この現象は、昨年末からの韓国政治の風景にも重なる部分がある。
12月の「非常事態」宣布、そして憲法裁判所によるユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領(当時)の弾劾決定、そして6月3日の大統領選へと続く流れの中、極端な分断と憎悪が噴出している。ネット掲示板やYouTubeでは、陰謀論や検証なき憶測、両陣営による相互非難が飛び交い、冷静な判断が難しい空気が醸成されている。
問題なのは、政治家がこうした「怒り」を鎮めるどころか利用している点だ。大統領候補が選挙不正の陰謀論に同調したり、一部の政治家が嫌悪を煽る発言をしたりしている現状は、まさに国民の感情を扇動して分断を深めているに過ぎない。
先日の期日前投票で一部有権者が選挙法を無視した行動に出たことも、「怒り」が理性を上回った結果と見ることができる。
ゲームストップ事件で得たものは、「一時的な達成感」と「市場の混乱」だけだった。多くの個人投資家は損失を抱え、金融市場全体が大きな影響を受けた。
今回の韓国大統領選が、ゲームストップ騒動のような結末になってはならない。勝利のために怒りを利用し、相手を傷つけるよりも、選挙後にいかに国を癒し、回復させていくかを真剣に考えるべき時が来ている。政治は「復讐の手段」ではなく、共同体の未来を築く道標でなければならない。【MONEYTODAY キム・フンナム記者】
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