2025 年 9月 9日 (火)
ホームライフスタイル平壌から済州まで…蕎麦でつなぐ朝鮮半島「平和の食卓」巡礼記

平壌から済州まで…蕎麦でつなぐ朝鮮半島「平和の食卓」巡礼記

インタビューに応じるパク・スンフプさん(c)news1

韓国の伝統麺料理である平壌冷麺や江原道のマッククス(蕎麦麺)、済州島の郷土料理ビントックなど、蕎麦を軸に朝鮮半島の食文化を歩いて記録する人々がいる。「朝鮮半島メミル(蕎麦)巡礼団」と呼ばれる団体だ。

この巡礼団を率いるのは、労働運動家であり2025年からチョン・テイル財団の理事長を務めるパク・スンフプさん。パク・スンフプさんは数十年にわたり蕎麦を巡る旅を続け、その記録を「そば巡礼記」という書籍にまとめた。単なるグルメガイドではなく、韓国の味覚の本質と平和の意味を語る一冊である。

巡礼団は週末ごとに10人前後が集まり、一日に数軒の蕎麦店を訪ねて少しずつ味わう。ただ食べるだけではなく、店主から調理法や歴史を聞き、同行者同士で意見を交わし合う“対話型巡礼”を重視している。現在、100人規模の仲間が活動しており、シニア世代に加え30〜40代の若手活動家、さらに政治・学術・文化界の人々も合流し、小さな社会共同体の様相を呈している。

江原道鉄原で生まれ、春川で育ったパク・スンフプさんにとって蕎麦は日常そのものだった。平壌出身の父の影響もあり、幼少期から冷麺やマッククスは特別なご馳走ではなく日常食だったという。パク・スンフプさんはその後、平壌の玉流館や中国・延辺の冷麺店、済州島の蕎麦畑にまで足を運び、40年以上にわたり蕎麦を追い続けてきた。

新著「そば巡礼記」には、ソウル・弘大や京畿道龍仁、江原道平昌、済州西帰浦など全国24軒の記録が収められている。ただしパク・スンフプさんは「食べ物に順位はない」と強調し、それぞれの地域・人々の文脈こそが味を形づくると語る。作家キム・フンさんからも「彼は冷麺を追う食通ではなく、蕎麦の精神を伝える伝道者」と評された。

パク・スンフプさんによれば、蕎麦は「塩辛さや甘さではなく、余白と淡白さを示す無味の美を持つ食材」であり、韓国料理が甘みに偏る現代にあって“均衡を取り戻す出口”だという。平昌のマッククス、江原東海岸のトンチミ冷麺、済州島のビントックなど、地域ごとに異なる食文化が根付いている。蕎麦はまた、干ばつや冷害でも育ちやすい救荒作物として歴史的に庶民の命を支えてきた。

パク・スンフプさんは「蕎麦は南と北をつなぐ食べ物だ。平壌の冷麺から江原道のマッククスまで分断を超えて共有されてきた。良い食べ物を分かち合う瞬間、人は互いを理解できる。蕎麦は平和の食卓であり共存の道そのもの」と強調した。

(c)news1

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