大人気の米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)の韓国ドラマ「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」では、激しい校内暴力に苦しめられた被害者ドンウンが「なぜ、私をいじめるのか」と加害者ヨンジンに尋ねる場面がある。ヨンジンはこう答える。「あなたをいじめても、あなたにも私にも何も起きないからだ」。このやりとりでわかるように、校内暴力には何の大義も理由もないのだ。
教職に数十年間携わってきた教師たちは、校内暴力にこれといった理由がないだけに、適当な解決策も見つけにくいと話す。残忍な校内暴力事件が社会問題になるたびに、教育当局はさまざまな解決策を打ち出すが、現場では「弥縫策」(びほうさく=物事を取り繕うだけの措置)に終わってしまうのだ。
◇「生記簿」への記録
2011年、韓国南部・大邱(テグ)のある中学生がいじめを苦にして自殺した。翌年、校内暴力対策審議委員会(学暴委)の措置を、加害者の「学校生活記録簿(生記簿)」に記載するという案がまとめられた。ただし、ある加害者の生徒は生記簿に記録を残そうとせず、訴訟を起こしてきた。生記簿に記載するという案は、内申成績に関心のある学生には有効だった。ただ、成績に関心のない学生には影響がないようだ。
京畿道城南市のある中学校に勤める34年目のA教師は「最近の中学生たちは『生記簿に記録されますか』と尋ねるほど、幼いころから激しい競争の中で敏感になっている」とし「頭でっかちな高校生たちにとっては、事実上『生記簿』に記載するという脅迫的な方法は有効だが、根本的な解決策にはならない」と話す。
さらに「大学進学校を志望する生徒たちは、訴訟を続けることで、合格する時点まで生記簿に記載されずに持ちこたえれば、問題ないのだ」と話す。訴訟中なら結論が出ないため、生記簿には何の記録も残らないからだ。
実際に「生記簿」への記載が義務化されて以降、生徒による訴訟が増加している。2012年には175件だった「加害学生行政審判処理件数」は2019年には893件にまで増えた。新型コロナウイルス感染で登校日数が少なかった2020年と2021年でもそれぞれ642件、682件だった。
学生部長経験のある23年目のB教師は、学暴委措置を生記簿に記録することで、むしろ逆効果になることもあると指摘する。B教師は「生記簿に記載されるので、被害生徒が申告できないほどさらに強く出てくる子どもたちもおり、加害生徒側で些細なことも認めず弁護士を選任して事が大きくなる場合がある」と話した。
◇社会のシステムが変わらなければ…
「入試競争の緩和なしには、校内暴力の解決も難しい」
教師たちは、こう口をそろえる。入試から始まって社会につながる競争ムードが緩和され、生徒と保護者が心の余裕を取り戻してこそ、校内暴力が解決する糸口を見出すことができるという。
A教師は次のような見解を持つ。
「教育熱心な親を持つ子どもたちは、両親の期待感から強いストレスを受け、それが限界に達すると授業時間に発しないような言動をとったり、爆発したりする。幼いころからべったりと飼い慣らされ、自分自身で生きていくのが難しくなると、攻撃性が高まる。社会のシステムが変わらなければ教育制度も変わらない。校内暴力の根本的解決は難しい」
B教師の指摘はこうだ。
「社会全体の雰囲気が、個人主義化している。子どもたちは、自分自身が最も重要だと考え、他の人に少しでも権利を妨害されたり、無視されたりすることを我慢できない。校内暴力は単に生徒と保護者の問題ではなく、社会全般の問題と見なければならない」
(つづく)
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