A薬品は一部労働者に「月52時間」の固定OT(overtime・超過勤務手当)を支給する。B課長は月平均52時間の超過勤務をしていないにもかかわらず、一種の“賃金上昇効果”を享受している。
Cプログラム開発会社は、まだ発生していない延長、夜間、休日手当を月給に組み入れている。D代理は、休日勤務がない月には「ボーナス」を受け取った気分になるが、超過勤務が特に多い月には「労働契約書上の超過勤務時間なのに正当な報酬を受けられない」と悩んでいる。
固定的に超過・夜間勤務手当が月給に含まれているとすれば、労働者の利益になるのか、それとも害になるのか。
包括賃金と固定OTは、労働者にとって賃金上昇効果もあるが「働いた分だけ報酬を受けるべきだ」という社会的基準で見れば、両面性を有している。相当数の労働者が恩恵を受けているが、一方で相当数の労働者が正当な待遇を受けられない現実がある。
韓国政府が苦慮するところだ。
雇用労働省は「サービス残業」「賃金未払い」「労働時間算定回避」など、包括賃金・固定OTの誤・乱用を根絶するために監督を強化し、関連制度の改善も講じている。
同省関係者は「包括賃金制を廃止すれば、賃金が減る労働者が生じるかもしれず、『働いた分だけ報酬を受け取る』ことが必ずしも労働者に有利に作用するわけではない。勤務形態、業種、労働者により、状況は多様化しており、継続的に現場の意見を聴取している」と話している。
◇費用発生を安定管理
包括賃金制は、事業主の給与支払い余力と労働者の給与上昇欲求が結合した産物だ。資金融通性と経営環境が不確実な事業主の立場では、労働者の超過勤務、夜間勤務、休日勤務手当を「固定」で支給することで、会社の費用発生を多少は安定的に管理できる。労働者の立場では、働かないこともあり得る時間に対する報酬を受け取ることができる。
中小ベンチャー企業研究院のノ・ミンソン研究委員は次のように指摘する。
「包括賃金や固定OTは必ずしも良い制度ではないが、直ちになくせば、事業者・労働者の双方が被害を受けかねない。包括賃金は規制可能なことではないかもしれない。政府の啓発活動とさまざまな部分で段階的なアプローチが必要だ」
こうした事情もあり、韓国政府は包括賃金、固定OTの誤・乱用に対する監督の強化を優先させている。労働者の出退勤記録を通じた正当な報酬システム構築などの制度改善を慎重に勧めながら、労働者を保護するために違法事例は摘発し、断固として対処するという方針だ。
雇用労働省はオンライン申告センターで受理した事業所を対象に5月末までサービス残業、長時間労働、労働時間の操作や記録・管理の怠慢、年次休暇取得実態などを検査する企画監査を開始した。
下半期にはIT、事務管理、金融、放送通信といった職種を対象に監査を実施する。保管、倉庫業、金融保険業、映画製作・興行業、通信業、教育研究業など、労働時間特例から除外された21業種に対する長時間労働監査も6月までに300事業所を対象に実施し、下半期にも追加で500の事業所を加える。
(つづく)
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