ソウル市龍山区(ヨンサング)東子洞(トンジャドン)には低所得者層の木造賃貸住宅「チョッパン」が数多くある。ここに、住民たちが寒さを和らげるために集まる店がある。
「焼き卵を1つください」「たばこを1箱ください」
住民たちが店に入ってくれば、目にとまる。500ウォン(約52円)の焼き卵(燻製たまご)を一つ選び、5分ほど店内にとどまって、寒さを和らげる。厚いセーターに青いダウンを羽織り、毛糸の帽子をかぶった男が、黙って立っている。
店から5分ほど離れた場所に住むキムさん(40代・女)はこんな話を耳打ちしてくれた。「チョッパンの住民たちはね、こうやって自分たちの安否を知らせているのです」
キムさんは、自身の隣に住む人のことを気にしていた。店にいる人に、その人のことをしきりに尋ねていたのだ。
「ここ数日、会えていない人がいるんです。心配なので、きょう訪ねてみます。あまりにも寒いのでね、どう過ごしているか……」
チョッパン村の掲示板にはこの日、ある住民の訃報が貼られた。
◇「3日会えていない気がする」
記者がチョッパン村を訪れた日、路地は閑散とし、人の気配が感じられなかった。たばこの煙が“ここに人がいる”ということを知らせてくれるようだ。
「近所のチョンおじさん、見かけた? 3日くらい会ってないと思うんだけど……」
キムさんはこの付近では比較的年齢が若く、性格も気さくな方だ。そんなキムさんの日課に、住民たちの安否確認がある。
「ある住民の姿を誰も見ていない、という話があれば、その人の家を訪ねてみる。ここには、いつ、どうなるかわからない境遇の人々がいますからね」
キムさんはこう不安そうに語った。
最近、消息が途絶えている住民がいる。無事かどうかを確認するため、この日もキムさんは外に出た。着いた先は、最大30世帯が住むことのできる3階建ての古い建物だった。
敷居を越え、中に入る。人がいる気配はなかった。手すりにロープをつないで作られた“洗濯干し”には、タオルと布団が掛けられたまま凍りついていた。
「玄関のカギがかかり、靴も置かれてある状態だったら、どうしよう……」。こんな心配を胸に、キムさんは緊張しながら、住民の名前を叫んでドアを何度もノックした。手段を尽くし、中に人がいないことが確認できた。キムさんは、安堵したように息を吐いた。
キムさんとってチョッパン村は「冬に誰かに何が起きてもおかしくない場所」だ。チョッパンの建物を出て、別の路地に向かう途中、ある家の窓を指差し、口ごもった。
「あそこの家で、一昨日、人が亡くなりました」
キムさんは窓に向けていた視線を下げ、しばらく頭を下げた後、「生死を確認しにいく」と言って、隣人の家に足を運んだ。
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