
「死ぬ覚悟での攻撃的経営こそが、困難にあるサムスンと国民経済を共に発展させる道だ」――長年の司法リスクから解放された韓国サムスン電子のイ・ジェヨン(李在鎔)会長に対し、サムスン社内の倫理監督機関であるサムスン順法監視委員会のイ・チャンヒ委員長が7月23日、こう強く注文した。
これは、イ・ジェヨン氏に取締役としての復帰を促し、経営の前面に立つよう求めるメッセージと受け取られている。あわせて、サムスンの将来戦略を統括する“コントロールタワー”の復活も議論の俎上にのぼっている。
イ・ジェヨン氏は2019年に社内取締役を退任して以降、5年9カ月にわたり登記されていない経営者の立場にある。韓国の4大財閥グループ(サムスン、現代自動車、SK、LG)の中で、唯一の“非登記経営者”だ。
サムスン順法監視委員会も2020年の発足以来、複数回にわたりイ・ジェヨン氏の登記取締役復帰を要請してきた。2023年の年次報告書では「責任経営の実現のためには、コントロールタワーの再建、組織内の意思疎通を妨げる障壁の除去、最高経営者の登記取締役としての復帰が必要」と明記された。
ただ、復帰には株主総会の承認が必要となる。来年3月の定期株主総会が想定されるが、前倒しで臨時総会を開く案もある。一方、グループ内でも時期や方法をめぐる意見の隔たりがあり、イ・チャンヒ委員長も「経営判断に委ねる問題」とした。
加えて、2017年に未来戦略室が解体された後、サムスンには実質的な戦略司令部が存在せず、現行の事業支援タスクフォース(TF)では代替が難しいという限界も指摘されている。イ・チャンヒ委員長も「国民経済と国際競争力の観点から、コントロールタワーは必要と考える」と述べた。
現在、サムスンは主力の半導体事業で競争力を失っており、米中対立に伴う輸出制限や競合の追い上げも重なって、複合的な危機に直面している。33年守ってきたDRAM市場1位の座をSKハイニックスに明け渡し、ファウンドリーやシステムLSI部門では内部調査が進められている。最近は米Masimoのオーディオ事業部や独空調会社FläktGroupの買収を進めたものの、2017年のHARMAN買収以来、目立った大型M&Aは見られていない。
こうした状況から、イ・ジェヨン氏が前面に立ち、責任経営を実現すべきだとの声が高まっている。特に、昨年末時点でのサムスン電子の小口株主数は516万人を超え、国内上場企業で最多を記録しており、「国民企業」としての役割も求められている。
一方、会社法の改正により、登記役員は従来よりも訴追リスクを負いやすくなっており、新たな司法リスクが懸念される。特に「忠実義務」の対象が会社から株主全体に拡大されたことで、法的責任の幅が広がった。
それでも、専門家の間では責任経営の観点からイ・ジェヨン氏の復帰は必要との意見が多い。世宗大学のキム・デジョン教授は「現在のサムスンは株価の下落や半導体事業の低迷に直面している。中長期的な視点で未来を見据える“かつてのサムスン”への回帰が求められる」と述べた。
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