
ウクライナ軍に捕虜となった北朝鮮軍兵士が「韓国の特定の地形を模した訓練場が、北朝鮮黄海南道谷山(コクサン)郡に造成されている」と証言した。これまで谷山郡は▽戦術弾道ミサイルの作戦基地▽北朝鮮最南端の空軍基地▽「谷山砲(自走砲)」の開発地――として知られていたが、いまでは、特殊部隊が訓練できる施設まで備えた「総合軍事基地」となっている可能性が高まっている。
◇溶岩地帯に軍事施設が密集、南下すれば5分でソウル到達
先月、ウクライナで捕虜となった北朝鮮軍兵士2人と面談した韓国与党「国民の力」のユ・ヨンウォン議員によると、捕虜の一人は「『武力部訓練場』に行くと、ソウル市鍾路区や釜山、大邱、全州、済州島の地形を模した施設が多数ある」と証言した。この「武力部訓練場」は黄海南道谷山郡にあると述べた。
北朝鮮情報ポータルによると、谷山郡には広大な溶岩地帯が広がるため、北朝鮮の軍事施設が密集する要衝となっている。
特に、北朝鮮空軍の最南端の作戦基地である「谷山飛行場」が位置している。北朝鮮の主力戦闘機であるMiG-17、MiG-21など約50機が配備されており、高速で南下すれば5分でソウルに到達可能な距離にある。
2020年には、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が衛星写真の分析を通じ、北朝鮮が谷山郡の「カルゴル基地」に中・短距離弾道ミサイルと移動式発射台(TEL)を配備していると報告した。同研究所は「カルゴル基地の施設は、北朝鮮の未申告ミサイル施設15~20カ所の中で最も高度に整備されている」と指摘している。
また、この地域は1978年に北朝鮮が開発した自走砲「谷山砲」(M-1978)が初めて確認された場所でもある。その後、改良型の170mm自走砲(M-1989)が開発され、最近では北朝鮮がロシアに供与した武器にも含まれていた。
◇有事の際、韓国中心部へ突撃する「侵攻ルート」
韓国政府傘下のシンクタンク「統一研究院」のホン・ミン(洪珉)研究委員は「谷山郡は戦時に義王(ウィワン)や東豆川(トンドゥチョン)など、韓国の中心部へ突入する『突撃ルート』の一つであり、人民軍第2軍団が駐留する地域」と指摘している。有事の際、「西部、東部への支援が可能なため、軍事的に極めて重要な位置にある」と述べた。
さらに「北朝鮮の第1・2・5軍団が前線で南下する際、後方の戦闘機の中継地点として利用されるなど、韓国の平沢(ピョンテク)や洪川(ホンチョン)にある予備師団の後方部隊と同様の役割を担っている」と説明した。
昨年11月、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記は、人民軍第2軍団司令部を視察した際の写真を公開した。その際、部隊会議室の机に広げられた大型地図には「ソウル」という文字がはっきりと確認された。この地図は、有事の際の第2軍団のソウル攻撃計画が含まれた作戦地図と推測され、背後の壁には韓国全域の主要地点が赤く記された地図も確認された。
これは、キム総書記が北朝鮮の特殊部隊を先鋒に韓国へ先制攻撃を仕掛け、短期間で韓国全土を制圧するという「3日短期速戦戦略」と関連しているとみられる。かつてキム・ジョンウン氏の父・キム・ジョンイル(金正日)総書記は「6日戦争」に言及し、軍事訓練を奨励していたが、キム・ジョンウン総書記はこれを3日に短縮し、特殊部隊の強化を図る戦略を立てたとされる。その中で、谷山郡の戦略的価値がさらに高まっているという分析がある。
2013年には、北朝鮮の対南宣伝サイト「わが民族同士」が「3日で終わる短期速戦戦」というタイトルの4分18秒の映像を公開した。映像には、前線の4個軍団所属の砲兵部隊が発射命令を受けて奇襲攻撃を開始し、続いて北朝鮮軍の第1・2・5軍団が南下。戦闘の犠牲を出しながらも平壌の指導部が、韓国の主要戦力が集中する地点に大規模な短距離ミサイルを発射する計画が描かれていた。
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