
ドローンによる偵察やギリースーツを着た狙撃兵――これまで「気合と根性」に頼る“腕力ショー”のようだった北朝鮮・朝鮮人民軍の特別部隊訓練が、着実に変化を遂げている。双眼鏡で現場を見つめるキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記は、満足げに笑みを浮かべていた。
この訓練の変化を最も敏感に察知できるのは、実際に軍で訓練を受けていた元軍人たちだ。17年間軍務に就いた元陸軍将校のパク・ユミン氏(仮名)と、特別部隊「第11軍団」で約5年間勤務したイ・ウンギル氏(44)は、北朝鮮で今月13日に公開された戦術総合訓練の映像を自らの経験に照らして分析した。
イ・ウンギル氏は「今回の訓練では、防衛司令部の兵士たちが首都への侵入を防ぐ役割を担い、一方で特戦隊の兵士たちはそれを突破する訓練を同時に進めたように見える」と述べた。
今回訓練があったのは、平壌郊外に位置する首都防衛軍団の第60訓練場。北朝鮮メディアはキム総書記がここを視察したと報じ、「万能力大隊基準突破を目的とした特別作戦部隊の戦術訓練」と称した。
この中で注目されたのが、第11軍団所属の部隊兵士との記念撮影だ。だがイ・ウンギル氏は「これは一部であり、実際には複数の特別作戦部隊の旅団や連隊が訓練に動員された可能性が高い」と推測する。
過去にも、実戦力に問題があると評価された部隊には、他の強化部隊を加えて合同訓練をする例が多く、今回も同様の意図があったとみられる。
今月9日にロシアで開催された「戦勝記念日」行事には、北朝鮮軍の将校団が登場した。その中には「総参謀部 第525部隊 中将」と名乗ったキム・ミョンチョル氏の姿があった。
イ・ウンギル氏はこの映像を見て「この部隊がウクライナのキーウにも派遣されていたとすれば、要人暗殺任務はまだ放棄していないということだ」と語った。
第525部隊は要人暗殺や後方攪乱などを目的に創設された北朝鮮の特殊部隊で、2016年には青瓦台(韓国大統領府)の模擬施設を使った突入訓練が衛星写真で確認された。
今回の訓練で使用された「万能大隊」という表現について、パク・ユミン氏は「新しい言葉ではあるが、過去にも『万能兵士』という概念はあった。ゲリラ戦、夜間戦闘など、あらゆる任務をこなせる兵士を育成するためのもので、今回はその概念を部隊単位に広げた形」と分析した。
一方でパク・ユミン氏は、訓練映像に登場した夜間装備やプロテクターなどについて「実際にはすべての兵士に支給されているわけではなく、北朝鮮は“見せるための訓練”が得意だ」と冷静に見ている。
また、現役の兵士らの心情については「上からの命令には従うが、心の中では『訓練がさらに過酷になるのでは』と不安を抱いているはずだ」と語った。
イ・ウンギル氏は、北朝鮮の海軍力や空軍力は韓国に到底及ばないとしながらも、最近のウクライナ侵攻での実戦参加や訓練の強化によって「北朝鮮の兵士たちは、韓国との接近戦に対し、ある種の自信を持っているかもしれない」と指摘。「北朝鮮軍は日常的に政治教育を受け、韓国軍を軽視する傾向があるうえ、最近はテレビなどで“ロシア戦で勝った”とアピールされている。訓練のレベルも上がっており、正直なところ少し怖さも感じるようになった」と吐露した。
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