
北朝鮮が医療制度の見直しに乗り出し、従来の「無償治療」を軸とした仕組みから、保険料を活用する制度への転換を本格化させている。財政基盤の強化を目的に、住民や企業の負担を取り入れる方向が鮮明になってきた。
韓国のシンクタンク・統一研究院の報告によると、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記は最高人民会議の施政演説で、保健制度の革新と「保健保険基金」による医療保障の拡大を強調した。報告は、今回の改革の核心が医療財政の強化にあると分析している。
特に注目されるのは財源構造の転換だ。これまで国家が全面的に負担してきた医療費について、今後は企業や個人が保険料を負担する仕組みへと移行する可能性が高い。保険基金は、企業と住民の義務加入による資金に加え、自発的な拠出も組み合わせた形になるとみられる。
ただ、無償治療制度そのものが完全に廃止される可能性は低いと指摘されている。無償医療は憲法や関連法に明記された体制の象徴であり、全面的な廃止は体制の正当性に影響しかねないためだ。このため、初期診療などは無償を維持しつつ、手術や精密検査などの高額医療を保険で賄う「二重構造」への移行が有力視されている。
こうした制度改革の背景には、医療インフラ拡充に伴う財政負担の増大がある。北朝鮮は今後5年間で100カ所の市・郡病院の建設や総合病院の拡充など、大規模な医療近代化計画を進めており、安定した財源確保が課題となっている。
実際、2026年の保健分野支出は前年より5.6%増加したとされる。報告は、保険基金の拡大により医薬品供給や医療設備の改善、サービスの質向上が期待できると評価した。また、これまで横行してきた非公式な謝礼や薬の個人購入といった慣行の是正にもつながる可能性があるとしている。
一方で、保険料負担が住民側に転嫁されれば、低所得層の医療アクセスが悪化し、格差拡大を招く懸念もある。制度改革は医療の質向上と引き換えに、新たな不平等を生む可能性も指摘されている。
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