
北朝鮮で最近発生した5000トン級の新型駆逐艦の転覆事故について、進水方法に問題があったとの見方が強まっている。韓国国内ではすでに廃止された「側面進水(スリップウェイ方式)」を北朝鮮が採用し、設備の不具合によって船体が横倒しになったとされる。
この方式は船体を海面と平行な状態でレールに載せ、台車を使って側方から海へ押し出すものだが、船体への衝撃が大きく、韓国などでは事実上使われていない。今回の事故では、船首と船尾の台車が別々に動いてしまい、バランスを崩した船が横倒しになったと見られている。
ではなぜ、北朝鮮はリスクを伴う側面進水にこだわったのか。最大の理由は、事故が起きた清津造船所の設備が老朽化し、船首または船尾を先に滑らせる「正面進水」方式に対応できないためとされる。
だが北朝鮮はこうした不利な条件の清津造船所をあえて新型駆逐艦の母港に選んだのがなぜか。そこには、1985年に同造船所で実施された1万4000トン級の貨物船「鉄山峰青年号」の側面進水の成功体験への過信があった可能性が指摘されている。
北朝鮮の記録映画「自力で勝利を収めた輝かしい歴史」(2019年放送)にも、鉄山峰青年号の進水シーンが登場する。船体が台車に乗せられ、スムーズに海へ滑り出す様子が記録されている。
韓国のKDB産業銀行が発刊した「2020 北朝鮮の産業」報告書によると、鉄山峰青年号は1985年に清津造船所で建造された大型貨物船であり、同所はかつて北朝鮮の主要造船拠点だった。1960年代までは小型漁船などを主に建造していたが、1970~1980年代には1万トン級の船舶も製造している。最大2万トン級の貨物船や超大型旅客船も建造されたと記録されている。
また、北朝鮮と日本の交流の象徴だった1万2000トン級旅客船「万景峰92号」も清津造船所で建造された。同船は2002年の釜山アジア大会で北朝鮮応援団を運ぶ役割を果たしたことで知られる。
しかし、1990年代半ばの「苦難の行軍」以降、同造船所での大型船舶建造の記録は確認されておらず、現在では施設の老朽化が著しいとされている。
今回の事故は、こうしたインフラの不足に加え、北朝鮮特有の「成果主義」が事故の一因となった可能性がある。
なお、清津での事故に先立ち、先月に黄海の南浦造船所で進水した別の5000トン級軍艦については、より安全な「フローティング・ドライドック方式(ドック内で建造し、水を張って浮かべる方式)」が採用されていた。
進水方法の選択が事故の命運を分けたといえる。
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