
北朝鮮が、韓国軍の対北拡声器撤去に応じて前線地域に設置していた対南拡声器を撤去した。韓国側が撤去に着手してから4日後の動きで、相互主義や比例措置の一環とみられるが、全ての融和措置に応じているわけではなく、実利を計算した「選択的応答」にとどまっているとの分析が出ている。
合同参謀本部によれば、北朝鮮は8月9日から拡声器撤去を開始。これは、韓国軍が南北間の緊張緩和のため、4〜5日に前線各所に設置された固定式対南拡声器を全て撤去したことへの対抗措置とみられる。
北朝鮮はイ・ジェミョン(李在明)政権発足後、韓国軍が6月に対北放送を中止すると、対南騒音放送を停止。韓国・国家情報院が心理戦の一環として続けてきた放送を52年ぶりに中断すると、妨害電波10波も停止した。こうした反応は数日以内と比較的迅速で、韓国政府の動きを注視している様子がうかがえる。
しかし、南北共同連絡事務所や軍通信線など2023年4月以降途絶した公式連絡チャネルの復元や民間交流には一切応じていない。6月末には仁川・江華島の海岸で発見された北朝鮮住民の遺体引き渡し要請にも反応せず、遺体は無縁仏として火葬された。
7月28日にはキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)党副部長が談話で「イ・ジェミョン政権も前任者と変わらない」とし、「南北二国家」論に従わなければ対話しないと強調。依然として敵対的な立場を維持している。
専門家は、拡声器問題は相互に負担が大きいため北朝鮮も迅速に応じたが、「南北二国家」路線が変わらない限り、連絡再開や水面下接触など真の関係改善にはつながらないと指摘する。慶南大学極東問題研究所のイム・ウルチュル教授は「北朝鮮は自らに不利でない範囲でのみ対応している。現状では応答の限界が明確だ」と述べ、10月の党創建80周年行事や不透明な米朝関係を背景に、当面は限定的な対応にとどまると見通した。
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