現場ルポ
◇水害に弱い半地下部屋「空室」
新型コロナのパンデミック以後、日常の回復にもかかわらず、中国朝鮮族はチャイナタウンに戻ってこない。
その原因は何か。まず最初に挙げられるのは、劣悪な住居環境だ。大林(テリム)に住む労働者の朝鮮族男性はこう嘆く。
「ソウルのチャイナタウンは、かつて住んでいた京畿道(キョンギド)南楊州(ナムヤンジュ)に比べ、住宅価格は倍ぐらいする。仕事を探すために来たのに、家賃と飲食代が高くて、生活は苦しい」
韓国在住の中国朝鮮族らの組織「全国帰韓同胞総連合会」のパク・ソンギュ会長は「家賃が基本的には50万ウォン(約5万2000円)~60万ウォン(約6万3000円)だが、中国朝鮮族の体感は(高級住宅街の)江南(カンナム)並だ」と訴える。
ソウルに位置するゆえ、住宅価格は地方より相対的に高い。なのに住居環境は劣悪で、災害から身を守ることさえままならない。
大林で不動産仲介業者を営むカン・ヒソクさん(72)は「今年8月の集中豪雨による水害の際、大林の地下室の多くが水に浸った」と振り返った。
大林で半地下部屋を賃貸に出している家主(82)はこの数カ月間、入居者がいないと嘆いている。「地下部屋4つが水害で被害を受け、壁紙から修理費まで700万ウォン(約73万円)をかけた。でも、次に入ろうという人がいない。部屋がまた水浸しになるのではないかと恐れて、これまでよく半地下を利用してきた中国朝鮮族が集まらない」
都市が抱えている問題を分析する民間研究機関「韓国都市研究所」のチェ・ウンヨン所長は「ソウルのチャイナタウンは中国から朝鮮族がやってくれば、最初に住み着く場所だ。だが、居住環境が劣悪なため多くが定着をせず、離れていく」との見解を語った。
これを裏付けるように、韓国法務省の「登録外国人国籍別・地域別現況」には、今年3月時点のソウル在住の中国朝鮮族は、3年前と比べて38.06%も減ったと記されている。京畿道(キョンギド)と仁川(インチョン)はそれぞれ24.34%、5.5%という数字になっている。
◇朝鮮族の人口減少と高齢化「変化が始まった」
そもそも、中国にいる朝鮮族の人口はこの20年間で22万人余り減少している。中国の人口統計資料によると、2000年に192万3842人だった朝鮮族は2010年には183万929人に減り、2020年には170万人台まで落ち込んでいる。
韓国・全北(チョンブク)大社会学科のソル・ドンフン教授は「中国には北京のような大都市、青島に代表される東海岸地域に雇用がある。中国に良質の雇用があるため、韓国に出稼ぎに来るような朝鮮族はほとんどいなくなった」とみる。
移住政策を調査・研究する韓国法務省傘下の「移民政策研究院」は3年前、中国朝鮮族流入の限界が近く到来すると予測した。「中国朝鮮族人口構造変化と政策課題」というテーマの政策報告書は、朝鮮族において生産年齢人口の減少が続き、人口流入は長く続かないと見通していた内容だ。1990年代に4.6%だった中国での朝鮮族の65歳以上の人口比率は、2010年の段階で11.2%まで跳ね上がっている。
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