2025 年 12月 10日 (水)
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ロボットが深夜にイチゴ収穫…韓国農業に「人がいない温室」の未来

ビヨンドロボティクスが開発したイチゴ収穫ロボット=同社提供(c)KOREA WAVE

韓国農業の風景が静かに変わりつつある。人工知能(AI)搭載のロボットが夜間に自律走行してイチゴを収穫し、翌朝にはトレイに整然と積まれた状態で農家を迎える――。そんな無人化された「人のいらない温室」の実現に挑むのが、韓国のディープテック系スタートアップ、ビヨンドロボティクスだ。

メガ・ニュース(MEGA News)のシン・ヨンビン記者の取材によると、ピョン・ソンホ代表は「農場で一番つらい作業に集中した」と語る。同社のイチゴ収穫ロボットは、収穫・トレイ交換・充電までを自律的に進める完全無人ループシステムで、農家の深夜・早朝の重労働を大幅に削減する。農業に縁のなかったエンジニアたちが始めたこの挑戦は、既に現場の農家から「実際に金を払って使いたい」と評価される段階に来ている。

2025年9月、全羅北道金堤(キムジェ)のスマートファーム「ベリーライス」と国内初の商業用収穫ロボットのレンタル契約を締結。今年12月には、忠清南道論山(ノンサン)地域のスマートファーム「ジャンベンイ農場」への販売契約も成立した。これは韓国で初めて、農家が研究目的ではなく、実用目的でロボットに対価を支払った事例だ。

ビヨンドロボティクスの創業者であるピョン・ソンホ代表と、後に参画したチョン・ヨンフンCOOは共に、韓国の大手企業LG電子や物流自動化企業CEMESの出身。創業当初は製造・物流自動化技術を生かすフィールドを探していたが、展示会で見たイチゴ収穫ロボットに衝撃を受け、農業の課題に本気で向き合うようになったという。

ロボット工学の観点から見ても、農業は最も難易度が高い分野とされる。凹凸のある地面、刻一刻と変わる周辺環境、個体差の大きい果実の形や色など、制御された工場とはまったく異なる環境が広がっているからだ。特にイチゴは深夜から早朝にかけての収穫が求められ、その時間帯に働く人手を確保するのが困難になっている。

ビヨンドロボティクスは、そうした現実に対応するため、夜間に暗闇でも果実を認識できる小型照明と3Dビジョンを活用。AIとソフトウェア最適化により、廉価なロボットアームでも人間並みのスピードと精度を実現した。現在はロボットアーム2本を用いて1分間に14~16個のイチゴを収穫でき、熟練作業員の水準(17~20個)に迫る。

ロボットはイチゴを傷つけず、正確に収穫する。収穫成功率は85%程度、実際に損傷する果実の割合は1%未満だ。これまで農業ロボットの研究は長く続けられてきたが、商用化に至る事例は少なかった。ビヨンドロボティクスは「技術デモ」から一歩踏み出し、「農民が金を払ってでも使いたい」と感じる製品に到達したのだ。

その理由の一つが、「無人運用」への徹底したこだわりだ。収穫だけでなく、収穫したトレイの交換、充電、作業再開までがすべて自動だ。農家が一晩中付き添う必要があっては、ロボット導入の意味がないという現場の声を徹底的に反映した。

ロボットの価格も現実的に設定されている。熟練労働者の人件費を年間約3500万ウォン(約400万円)と想定し、投資回収期間を1.5~2年以内に抑えることで、導入ハードルを下げた。論山の販売契約は、自治体や農業技術センター、地域大学と連携した実証事業の一環で、教育や農業データ取得も含まれる。全国では、益山(イクサン)、楊平(ヤンピョン)、大邱(テグ)、天安(チョナン)などでも導入協議が進んでおり、大規模供給が視野に入る。

中期的にはイチゴに加え、トマト、パプリカ、唐辛子など高付加価値作物への展開や、米国・欧州・オーストラリアといった人件費の高い先進農業国への輸出も計画している。将来的には農業を起点に、F&B(食品業界)、物流、製造、流通に至るまで、実世界で自律的に動く「フィジカルAIプラットフォーム企業」としての成長を見据える。

ロボットが収穫作業をこなすだけでなく、作物の状態・温度・湿度・時間帯ごとの画像といった多様なデータを農場内で収集し、AIによるスマートファームの実現に必要な基盤を築く構想だ。

ピョン・ソンホ代表は「私たちが作るのは単なる自動化ロボットではない。農村を持続可能な産業にするための、本当に使えるAIなのです」と語る。

(c)KOREA WAVE

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