22日午後、韓国仁川市(インチョンシ)東区(トング)花水洞(ファスドン)のHD現代インフラコアにサイレン音が鳴り響いた。一糸乱れず救助隊員が動き、赤いカバンを背負った外傷専門医と看護師、救急救助士が、臨時医療所が設けられたテントの中に飛び込んだ。ほどなくして臨時医療所を出た彼らは、患者に酸素吸入しながら「ドクターカー」に移動した。
仁川消防本部と仁川中部(チュンブ)消防署が実施した「2023災難現場救急対応訓練」の様子だ。
今回の訓練は、建物内のガス爆発で火災が起き、死亡4人を含め死傷者計27人が発生した――という想定だった。要員245人と消防装備55台が投入され、救助から応急処置、病院移送まで実戦さながらの訓練だった。
運動場には足と手の甲にギプスをし、頭にガーゼなどを付けた軽度の負傷者たちが搬送を待っていた。緊急の患者は怪我の重さに応じて救急車で搬送された。
嘉泉(カチョン)大学吉(キル)病院外傷外科のチョン・セボム教授が搬送した仮想負傷者は60代女性患者だ。現場で意識が低下し、収縮期血圧と弛緩期血圧が70から50程度と非常に低い状態だった。酸素飽和度は85%まで下がり、体内出血によってショック状態になったため輸血し、外傷センターに直ちに搬送する必要があった。
患者が運ばれたのは「路上の救急室」と呼ばれる「ドクターカー」だった。
「ドクターカー」とは重症外傷患者の「ゴールデンタイム」を守るために外傷専門医と看護師、救急救命士が同乗する救急車のことだ。搬送開始の時点で外傷専門医が同行し、応急処置ができるという点が一般救急車との最大の違いである。
ドクターカー内部では気管挿管(インチュベーション)や輸血のほか、手術をすることもある。2021年10月、京畿道(キョンギド)金浦(キムポ)市のある工場で労働者の腕が破砕機に挟まれる事故が発生した。当時、通報を受けた119が現場に出動したが、腕を抜いたり機械を分離したりできない状況だった。
ドクターカーに乗って現場に向かった嘉泉大学吉病院外傷外科医療スタッフが患者の同意を得て、直ちに腕を切断する手術に取り掛かり、患者の命を救うことができた。嘉泉大学吉病院と仁川市は2019年、全国地方自治体で初めてドクターカーの運用を開始した。
119で救助要請が受け付けられると、119の担当者が患者の状態を聴き取ってドクターカーに出動要請をする。5分以内に出動し、最長でも30分で到着する。
ドクターカーで搬送された患者は、直ちに外傷専門救急室に運ばれ、処置を受ける。外傷専門救急室は一般救急室とは異なり、病床間の空間が広く、簡単な手術ができるように整えられた空間だ。
ドクターカーは患者搬送時の応急処置はもちろん、専門医療スタッフを他の病院に連れて行き、応急処置ができるようにする。現場近くの病院に装備がない場合は、装備を持っていき、施術して患者を搬送することができる。この場合も速やかに、適切な治療を受けることができるため、生命が助かる可能性が高くなる。
2015年は韓国の予防可能な外傷死亡率は30%台だった。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も低い水準だった。予防可能な外傷死亡率は事故後、適切な措置を受けることができれば命を救うことができたはずの患者が、死亡する率を意味する。
韓国の予防可能な外傷死亡率は2019年15.7%に減った。保健福祉省は今年3月、「4次救急医療基本計画」を発表し、予防可能な外傷死亡率を2027年までに10%まで下げると宣言した。ドクターカーは予防可能な外傷死亡率を下げるのに寄与できる核心の一つとされている。
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