2025 年 8月 27日 (水)
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スーパーマンじゃない。心が壊れる「英雄」たち…韓国消防官の現実 [韓国記者コラム]

2022年10月30日、ソウル・梨泰院で事故が発生した当日、現場で移動用ベッドを運ぶ消防関係者(c)news1

韓国で、「英雄」と呼ばれる消防官が続けて命を絶った。だが彼らはスーパーマンではなく、傷つき苦しむ一人の人間である。

2022年の梨泰院雑踏事故に出動した消防官のうち、30歳の隊員が今年8月10日未明に失踪し、10日後に京畿道始興市で遺体で発見された。また慶南消防本部所属の44歳消防官も自宅で亡くなっているのが見つかった。両者とも梨泰院事故のトラウマに苦しんでいた。

30歳の隊員は8回のカウンセリングと薬物治療を受けていたが「申し訳ない」と遺書を残して亡くなった。44歳の消防官は事故後の衝撃から勤務先を異動したが、公務上の疾病と認められず、国家人事革新処から療養申請を不承認とされた。

消防官は国民から「英雄」と称される。しかし、その呼び名の裏で彼らは災害現場で繰り返し、死を目撃し、精神的に追い詰められていく。だが精神的サポートは短期的で不十分だ。梨泰院事故直後には1316人の消防隊員に緊急心理支援が施されたが、期間は約11カ月に限られた。その後の相談制度も本人が休暇を取って臨む形式で、同僚への負担を考え積極的に利用しづらい。

「国民に英雄と呼ばれるのはありがたいが、常に冷静でいなければという重圧もある」

「自分だけが神経質でおかしいと思われるのではと相談をためらった」

現役消防官はこう語る。こうした雰囲気が相談を避ける要因となっている。

国は、トラウマが事故直後にしか発生しないかのように考えている。だが、実際には時間を経て別の出来事に触れたとき発症する「複合トラウマ」もある。繰り返し災害に直面する消防官にとって、そのリスクは大きい。

ジェームズ・ガン監督の映画「スーパーマン」では、主人公が「私は誰よりも人間だ」と弱さを告白する場面がある。今回命を絶った消防官たちの相談や申請も「自分も人間であり、つらい」という叫びだったはずだ。

消防官を「英雄」と呼ぶだけで満足してきた社会は、その裏で必要な支援を怠ってはいなかったか。

今こそ、災害現場で精神的打撃を受ける消防官のため、国家的な支援体制を整えるべき時だ。【news1 シン・ユナ記者】

(c)news1

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