完全自動運転技術が開発されれば、高齢ドライバーの問題は自然に解決される。人間の介入が必要ないレベルの自動運転なら、ドライバーの認知能力などは何の問題にもならないからだ。ただ、完全自動運転レベルにまで達するには、依然として多くの時間と費用が必要だ。高齢者が、この技術が適用された車を購入できるかどうかも確認する必要がある。
米国の非営利団体「SAEインターナショナル(自動車技術者協会)」は、自動運転技術をレベル0から5までの計6段階に区分している。この中で、高齢ドライバーに代わるレベルの自動運転はレベル4からだ。レベル4は、ほとんどの道路で自動運転が可能なレベルで、走行制御と責任の両方がシステム側にある。ドライバーの介入はほとんど不要だ。
現在、一般的に運転者が使用している走行補助装置は、レベル2に該当する。そして、世界的な自動車メーカーは「危険時だけドライバーが介入する」レベル3の敷居に足を踏み入れた状況だ。韓国では今年初め、現代(ヒョンデ)自動車傘下の起亜(キア)自動車の電気自動車(EV)「EV9」と、現代自動車の「ジェネシスG90」にレベル3の自動運転技術が搭載される予定だ。
昨年、ドイツのメルセデス・ベンツは「Sクラス」に、スウェーデンのボルボは「EX90」などにレベル3の自動運転技術を登載し、現地で発売した。米テスラの自動運転(オートパイロット)と完全自動運転(FSD)は、レベル2とレベル3の間にある。
◇「レベル4」もまだまだ先
業界は、高齢ドライバーに必要なレベル4の水準に達するのは、まだ先が遠いとみている。完成車メーカーや自動運転スタートアップが予想していたより、多くの費用と時間がかかっているからだ。
このため、自動運転に果敢に投資してきたメーカーも速度を調整している。
代表的な事例が昨年10月、米フォードと独フォルクスワーゲン・グループの自動運転合弁会社「 アルゴAI」の廃業だ。
同社は2016年に設立された自動運転スタートアップで、一時企業価値が70億ドルに達するほど業界の期待を集めた。自動運転技術も優れているという評価を受けたが、会社設立から6年で廃業に追い込まれた。
この時、フォードのジム・パーリー最高経営責任者(CEO)は「2017年にアルゴAIに投資した時は、2021年までにレベル4の自動運転技術を登載した車を発売すると予想したが、今は状況が変わった」と話した。
グーグルの親会社「アルファベット」の自動運転開発企業「ウェイモ」も人員を削減している。ロイター通信などによると、ウェイモは今年に入って全従業員の8%である209人を削減する。自動運転技術を最も果敢に導入したテスラは、自動運転関連技術の欠陥で36万台をリコールする事態に陥った。
自動車業界の関係者は「最近の景気低迷で投資余力まで減り、レベル4水準の自動運転技術を開発するまでにどれくらいかかるか予測できない」と嘆く。そのうえで「完全自動運転車が開発されたとしても、初期段階で高齢者がこの技術を登載した車を買うのは別問題だ。現状では高齢ドライバーの問題は、技術より制度的にアプローチするのが正しいと思う」との見解を示した。
◇頭抱える保険会社
高齢ドライバーによる交通事故の増加は、自動車保険を販売する損害保険会社にも少なからぬ負担を与えている。まだ割合が高い方ではないが、ますます高齢化する社会構造を勘案すれば、長期的な対策が必要だ。
70歳以上のドライバーの「自動車保険損害率」(入ってきた保険料に対する支払った保険金の割合)は、全体より平均2~3ポイント高い。
自動車保険のシェア80%を占める4大損害保険会社(サムスン火災、現代海上、DB損害保険、KB損害保険)の損害率は、一般的に70%台後半から80%台前半だ。通常、1~2ポイントの差で黒字と赤字が分かれる。これを勘案すれば「平均2~3ポイント」は決して少ない数字ではないというのが業界関係者の説明だ。
まだ高齢ドライバーの割合は高くない。したがって現時点では全体的な損害率や純益に及ぼす影響は大きくないという。しかし、時間がたつにつれ、高齢ドライバーの交通事故の増加は、自動車保険市場全体に大きな影響を及ぼしかねない、という意識は形成されている。
特に、70歳以降、交通事故の危険度が急激に増加することがわかっている。サムスン火災交通安全文化研究所が昨年9月、韓国警察庁の交通事故資料を分析した結果、60~64歳の交通事故危険度は15.2だった。65~69歳も16.03で大差はなかった。70~74歳になると交通事故の危険度が16.94に上がり、75~79歳になると18.81に跳ね上がる。80~84歳になると23.18で、85~89歳は26.47に達する。
交通事故の原因になる▽視力低下・眼科疾患▽聴力低下・耳鼻咽喉科疾患▽循環系疾患▽神経系疾患▽筋骨格系疾患▽精神系疾患――などの発病率が該当年齢帯で増加する点が交通事故危険度増加に影響していると研究所はみている。
現在、一部損害保険会社は、65歳以上の顧客が道路交通公団で実施する高齢ドライバー交通安全教育を履修し、認知機能検査をパスすれば5%程度の保険料を割引する制度を実施している。しかし、長期的な観点から、このようなインセンティブ制度が根本的な代案にはならないとの見方もある。
保険業界のある関係者は「さまざまな統計資料を総合的に見た時、60~70歳までの規制は緩和する一方、70歳以上の運転安全対策はより基準を高め、実効性を確保しなければならない」と話した。
(おわり)
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