2024 年 12月 5日 (木)
ホームエンターテインメントカメラが追った命がけの脱北ミッション…米国ドキュメンタリー撮影に応じた韓国牧師「KーPOPが金正恩政権を脅かす」

カメラが追った命がけの脱北ミッション…米国ドキュメンタリー撮影に応じた韓国牧師「KーPOPが金正恩政権を脅かす」

夜間に山を越える脱北者の親子(「ビヨンド・ユートピア 脱北」より)(c)TGW7N,LLC 2023 All Rights Reserved

北朝鮮からの脱出住民(脱北者)が中国、東南アジアを経由して韓国に向かう命がけの亡命プロセスを映像に収めた米国のドキュメンタリー「ビヨンド・ユートピア 脱北」(マドレーヌ・ギャビン監督)が12日、日本で公開される。映画で脱北者支援の中心人物として描かれている韓国ガレブ宣教会のキム・ソンウン(金成恩)牧師がこのほど来日し、KOREA WAVEのインタビューに応じた。キム・ソンウン氏は「北朝鮮の劣悪な実像と、脱北者の深刻な状況を広く伝えたかった」などと、映画撮影に応じた理由を語った。

◇東南アジアルート

北朝鮮からの脱出には(1)パスポートを持って出国し、外国公館などの保護を受ける(2)韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線を越える(3)北朝鮮の海岸から韓国を目指す(4)川を隔てた中国に逃れ、東南アジアを経由して韓国に渡る――などの方法がある。だが前の三つはハードルが高く、大半が(4)を選択することになる。この映画は(4)のプロセスを携帯電話や隠しカメラで撮影したものだ。東南アジア経由の脱北は珍しくないが、そのプロセスを克明に記録した映像はこれまでなかった。

「ビヨンド・ユートピア 脱北」は▽北朝鮮の一家(夫婦と80代の母、女児2人の計5人)▽中国に潜伏していた北朝鮮青年――の二つの物語を中心に展開している。前者は1万2000kmに及ぶ大移動を経て、韓国に亡命する。後者は中国で拘束されて北朝鮮に強制送還され、政治犯収容所に収監される。対照的な結果となったこの二つのプロセスを担っているのがキム・ソンウン氏だ。

脱北者問題は2002年5月、3歳女児を含む5人が中国遼寧省瀋陽にある日本総領事館に駆け込んだ「ハンミちゃん事件」で広く知られるようになった。キム・ソンウン氏はこの前後から脱北者支援を手掛けてきた。昨年春までに韓国に連れてきた脱北者は計1015人に上るという。

「北朝鮮住民が故郷を離れる理由は、かつては大半が『食べるに困って』というものでした。ところが、この10年は、K-POPなどの韓国の若い文化が北朝鮮に入り、それに魅せられた人たちが『韓国でも行こうか』と考えるようになったのです。『子どもたちの未来のために』と言って、家族単位で逃げるケースも増えました」

北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)政権が、韓国文化の禁止や脱北者ゼロを掲げているのも、こうした現象への危機感が背後にある――キム・ソンウン氏はこう考えている。

インタビューに応じるキム・ソンウン(金成恩)牧師=東京都内で(c)KOREA WAVE

◇中国の改正反スパイ法で離れる支援者

脱北者は、最初に足を踏み入れることになる中国で「不法滞在者」として扱われる。警察当局に見つかれば北朝鮮に強制送還され、生命の危機にさらされることになる。脱北者をかくまった場合も、処罰の対象となる。

「中国では昨年7月1日に改正反スパイ法が施行され、スパイ行為の取り締まりが強化されました。中国で脱北者を助ければ、例外なく『スパイ』として扱われます。以前は脱北者支援で捕まると3年程度の拘束でしたが、今は13年です。刑罰が厳しくなり、中国国内で我々の活動を支援してくれていた人たちも離れていきました」

映画に登場する5人家族は、キム・ソンウン氏らの支援を受けて、中国→ベトナム→ラオス→タイと渡り歩く。文字通り、山を越え、川を渡るという過酷なルートだ。途中で命を落とす脱北者も少なくない。現地警察に捕まらずに、あるいは事故に遭わずに切り抜けた者だけが、ゴールである韓国にたどり着くことができるのだ。

そして、夢に見た韓国。そこで脱北者たちは「自由とは何か」を理解するという。ただ、その度合いは年齢によって異なる。

「高齢者の場合、いまも『キム・ジョンウン総書記がお痩せになった』などと心配しているんですよ。韓国で『ガスライティング』と呼ばれる、一種の洗脳が解けない状態が続いていて、それが非常に深刻なのです。高齢であるほど、北朝鮮の『残滓』が消えにくいのです」

「一方で、幼い子どもたちは韓国文化をどんどん受け入れていく。20歳以下なら、K-POPにはまり、韓国ドラマが好きになります。そして『自由とはこういうことなのか』と知るようになります。北朝鮮では、いくら頭が良くても、いくら勉強しても、出身成分が悪ければ出世できない。でも韓国では自由な環境で、やりたいことを何でもやれます。これを子どもたちは『自由』だと認識するのです」

◇核・ミサイルではなく食べ物を

映画には、脱北者が朝鮮半島の童謡「故郷の春」を歌う場面がある。キム・ソンウン氏によると、脱北者はもはや故郷に戻ることができないため、この歌が口をついてくるそうだ。

「私が連れてきた人に、故郷が嫌いだから脱北したという人はひとりもいません。北朝鮮政権が嫌だから、そうするのです。脱北者の大部分は『南北が統一されれば、自由が実現すれば、必ず故郷に帰りたい』と言っているのです」

キム・ソンウン氏はこう強調する。そのうえで、北朝鮮政権に向けて訴えたい言葉を繰り返した。

「食料問題をすべて解決し、生活をするうえでの困難がなくなれば、脱北者など発生しない。でもいまはミサイルをつくり、核を開発することに力を注いでいるため、住民は飢え、生きるすべがなくなっている。北朝鮮は核・ミサイルではなく、食べる問題を解決すべきです」

(c)KOREA WAVE

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