けがによってプロ生活に終止符を打たざるを得なかった韓国の元サッカー選手が、「後進には同じような悔しい思いをさせたくない」と、コンディション管理と負傷防止のシステムを手掛けている。
元アスリート、イ・サンギ氏が2018年に立ち上げたスタートアップ「QMIT」は今、アスリートの管理システム「AMS(Athlete Management System)」である「プルコ(plco)」を運営する。
◇選手の睡眠・心理状態まできめ細かくケア
イ・サンギ氏は小学5年生の時にサッカーを始め、2010年にプロサッカー球団の「城南一和」に入団した。翌年、「水原三星」に移籍。その後、「金泉尚武FC」を経て、「水原FC」「ソウルイーランドFC」で選手生活を送った。現役時代、幾度のけがに悩まされ、2017年12月、プロ生活を終えることになった。
大韓体育会が調査した「2019年引退運動選手実態調査」によると、韓国のスポーツ選手の平均引退年齢は23歳という。けがで引退を決めた選手は24.8%に達する。
スポーツ市場が拡大して競争が激化する。選手は自身の技術を高めるため、より負荷の大きなトレーニングに臨み、それがけがを誘発する形となったようだ。
「プルコ」は、選手が試合やトレーニングの前、疲労度、ストレスレベル、気分、睡眠時間などに加え、コンディションや痛み部位や強度、頻度などの負傷情報を、定量化された尺度で記入する。このデータが監督とコーチに伝えられ、選手のコンディションをいかに管理すべきかの分析が可能となる。移動距離や心拍数など計量的指標のほかにも、選手の心理状態など精神生理学的概念を考慮した疲労水準までチェックできるようになる。
「プルコ」は既に、現場に広く使われている。
昨年末の段階で、33銘柄、260チームが「プルコ」サービスを利用している。「プルコ」に自身の体調とコンディション情報を登録している選手だけでも1万人を超える。実績も大きく成長し、昨年の月平均売上高は前年比225%以上増えた。
主要な顧客には、大韓サッカー協会(KFA)、プロサッカー連盟(Kリーグ)、金泉尚武(Kリーグ1)、慶南FC(Kリーグ2)などサッカー関連団体が名を連ねる。最近は、男子バレーボールのソウルウリカードWON、女子バスケットボールの富川ハナワンキューにも顧客の輪が広がっている。
◇ビッグデータで拡張性アップ、海外進出も
イ・サンギ代表のアイデアに多額の資金が集まっている。QMITは最近、30億ウォン規模の投資を誘致した。「普光(ポグァン)インベストメント」が主導した今回の資金調達に、初期スタートアップ投資専門アクセラレーター「SCHMID」や韓国ベンチャーキャピタル「Big Basin Capital」、「NBH CAPITAL」が投資会社として参加した。
投資家が見るQMITの強みは拡張性とビッグデータだ。QMIT投資をリードした普光インベストメントのカン・グミン代表は「『プルコ』サービスは韓国サッカー市場のほか、より広いスポーツ市場に拡張できる可能性が高い」とみる。
直観的な「プルコ」サービスは、翻訳さえすれば世界中の誰でも簡単に使える。カン・グミン代表は「言語的な障壁がないサービスなので海外進出が容易だ」と話している。
◇多様な試みを進める
「プルコ」の有するビッグデータも、QMITの資産だ。幼少年時代から成人まで蓄積された選手のビッグデータは、選手のスカウトやリハビリなど、多様な分野に活用できるからだ。
Big Basin Capitalのホン・ソンギ責任審査役も「選手の状態を診断するのに必要なデータを収集・分析する技術は、今後、スポーツ産業でのウェルネス市場を左右する核心的な技術になるだろう」と話している。
一方で、選手が自発的に情報を記入する形式のシステムについては「改善が必要」だという指摘もある。選手が自身の疲労度とストレスレベルを直接入力するため、情報に正確さが担保されないという懸念がある。
QMITは今回調達した資金を「負傷予測モデルの高度化に向けた人工知能(AI)技術の開発や適用」や「グローバル進出に向けた市場調査」などに投入する計画だ。
イ・サンギ代表は次のように抱負を語る。
「今年は、あらゆる職種において、スポーツ産業に対する理解度の高い人材を積極的に迎え入れ、その成果に期待している。また、B2C(企業と消費者間取引)事業モデルの拡大や、グローバル進出のためのテストベッドの稼動など、裾野を広げていくための多様な試みを進めていく」
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