
1月下旬のある朝、ソウル駅前の広場には、氷点下の体感温度を突き刺すような冷たい風が吹き抜けていた。地下通路に人影はまばら。その静寂の中に、ホームレス一人ひとりの名前を呼ぶ優しい声が響いていた。
「おじさん、グッドモーニング!元気ですか?」
この声の主は、ソウル南大門警察署・ソウル駅派出所に勤務するパク・アロン警衛(日本の警部補に相当)。2020年から「ホームレス専任警察官」として任務を担っており、今年で7年目を迎えた。ソウル駅周辺に住み着く人々にとっては「息子」であり「友人」、時に「解決者」として親しまれている。
午前6時41分。彼の一日は、駅の地下通路の見回りから始まる。この日、ソウル駅周辺の常駐ホームレスは約150人。2020年に赴任した当初は295人いたが、一時は130人台まで減少。現在はやや増加傾向にあるという。また、簡易宿泊施設や下宿、ワンルームなどに断続的に滞在する「非常駐」の人々も約1300人に上る。
パク警衛は毎日6〜7回の巡回を欠かさない。1回の巡回にかかる時間は最低でも1時間。相談対応や緊急事案が重なることもあり、1日の勤務時間はほとんどが巡回に費やされる。

最初に出会ったのは、ソウル駅周辺で40年以上を過ごしてきた高齢の女性ホームレスだった。
「お母さん、早いですね。今日は大丈夫ですか? ホッカイロは持っています?」
彼女は静かに頷き、手にしたホッカイロと澄んだ目をパク警衛に見せた。それを確認すると、彼は次のポイントへと向かった。「ご高齢の方は最優先で確認する必要があります。呼吸や反応速度から健康状態を見極めることが重要なんです」と語る。
彼は地下通路のテントや段ボール製の簡易寝所をひとつひとつ丁寧に確認する。毛布を無理にめくるのではなく、名前を呼んだり目で合図したりして安否を確認する。「誰が接触を嫌がるのか、毛布をめくられるのを嫌がるのか、すべて把握していないといけません」
巡回の途中では、ホームレスたちと名前で挨拶を交わす姿が見られた。手を振るだけの人もいれば、笑顔で会話を交わす人もいる。目線を合わせるだけの人もいれば、短い言葉を交わしたがる人もいた。パク警衛はそれぞれに合った距離感で寄り添う。

巡回中には、通報対応も発生する。「通路に排泄された」などの苦情から、「酔って財布と携帯をなくした」という相談まで多岐にわたる。パク警衛は「お酒は控えめにしないと」「私が電話して探してみますね」と穏やかに対応していた。
午前7時ごろ、駅裏のテント村で裸足の男性を発見。「とりあえず待合室に入っていてください。靴を探してきますから」と伝えると、すぐにその場を駆け出した。
彼が最も警戒するのは冬の早朝だ。「朝6時半から9時の間が一番危険です。気温が最も下がり、低体温や突発的な行動、事故が起こりやすい。だからこの時間帯はずっと巡回しながら保護に動いています」と語った。
7時10分を過ぎる頃には空が明るくなり始め、彼は巡回範囲を広げた。自殺の恐れがある場所では自ら手すりの高さを確認し、構造的に危険な箇所は写真を撮って記録に残していた。
再開発で空き家になった建物も隈なく確認する。中に人が入り込み、そのまま発見されなければ命に関わる事態になりかねないからだ。
パク警衛の頭の中には、150人の常駐者の位置や状態がすべて入っている。早朝に確認すべき人は約70〜80人。彼は一人ひとりの顔を目で確認し、確認できた人数を頭の中でカウントしていく。誰かの姿が見えなければ、まずその理由を探る。
「この時間帯には70人くらいは見えていないといけません。一人ひとり目にするたびに、自然と数字が積み上がっていく。もし見かけない人がいたら、ずっと気になるんです。どこへ行ったのか、何かあったんじゃないかと」

この仕事を「時間との戦い」と表現する。「時間が力なんです。多くの方を知ってこそ守れるし、犯罪も防げます。一日二日顔を合わせただけでは信頼は得られません。毎日会って、名前を呼んで、信頼を築いて、ようやく心を開いてくれるんです。1〜2年の勤務では到底足りない仕事ですね」
約1時間の巡回を終えたパク警衛は、こう語った。
「見た目は荒れていても、心はとても繊細な方ばかり。まるでガラスのようです。だからこそ、もっと頻繁に会って、もっと早く異変に気づく必要があるんです」
凍える寒さの中でも、ソウル駅周辺のホームレスを守るパク警衛の一日は、また始まっていた。
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