
「急がば回れ」
状況が厳しい時こそ冷静に周囲を見渡し、正しい判断を下せという意味だ。スペイン・バルセロナで開かれた世界最大の移動通信展示会「モバイルワールドコングレス(MWC)」に出席したユ・サンイム(劉相任)科学技術情報通信相の姿勢は、まさにこの言葉を体現するものだった。
ユ・サンイム氏はMWC期間中、一度もスニーカーを脱ぐことはなかった。中国企業が披露したヒューマノイド(人型ロボット)をはじめとするAI技術は、韓国企業にとって大きな脅威となり得るものだったからだ。
MWCでは、スタートアップ企業ブースを手始めに、韓国のサムスン電子、SKテレコム、LG Uプラス、KTのブースを次々と訪問した。企業代表らと面会し、絶え間なく質問を投げかけた。
忙しく動き回る一方で、ユ・サンイム氏は現状を冷静に分析していた。韓国企業の技術力を手放しで称賛するのではなく、スペイン政府関係者との交流時間が十分に取れなかったことを悔やんだ。
MWC閉幕の前日、ユ・サンイム氏は「中国の技術力に、頭が痛くなるほどの衝撃を受けた」と率直な感想を述べた。そして、韓国の研究機関(政府系研究所)の研究体制を改善する必要があると指摘した。
科学技術情報通信相がMWCを訪れるのは3年ぶりだった。大統領と首相が不在という状況下で、政府高官さえも参加しなければ「韓国が正常に機能していない」と国際社会に誤ったメッセージを与えかねないとの懸念もあり、ユ・サンイム氏は現場に足を運んだ。結果的に、訪問自体が“外交”となり、AI技術の最新動向を視察する機会となった。
最終日、ユ・サンイム氏はスニーカーを脱ぎ、革靴に履き替えた。しかし、ユ・サンイム氏が韓国に持ち帰る課題は山積みだった。その中で最も喫緊の問題は「人材確保」だ。
中国がファーウェイやディープシンクといった先端企業を育成できたのは、海外で経験を積んだ優秀な人材が母国へ戻り、技術生態系を構築したためだ。
ユ・サンイム氏もこの点を強調した。
韓国も自国の弱点を冷静に見つめ直し、具体的な対策を講じるべき時期に来ている。海外に流出した韓国人技術者を呼び戻すインセンティブの提供や、海外の優秀な研究者を招聘する方法を真剣に検討しなければならない。
急ぐほど遠回りするべき時もある。しかし、ユ・サンイム氏は既に「遠回りの中で何をすべきか」を判断した。
今こそ、迅速な行動に移すべき時だ。MWCでの“スニーカー外交”が、韓国の技術革新を加速させる第一歩となることを期待したい。【news1 ソン・オムジ記者】
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