Startup Story ~~ 成功のカギ
現代自動車社内ベンチャー「Mobinn」 チェ・ジン代表
配達ロボットが躊躇することなく階段を上る。前に傾くかとハラハラするが、うまく水平を保つ。玄関の前に到着し、コンビニ弁当を吐き出すように降ろし、また違う階に移動する。大部分の配達ロボットが、1階玄関前で注文者が来るのを待つ。だが、このロボットは違う。非常階段を上り下りするのだ。しかも、一度で多数の注文を処理する。
ただ、よく走り、届け先をしっかり探せば良い――これが従来、配達ロボットに求められていた機能だった。「ライバル企業は配達地域を平地に限定し、限られた空間で配達していました。私たちのロボットは、どこでも行きますよ」。チェ代表はこう力を込めた。
都心を縦横無尽に歩き回る配達ロボット。開発の条件は、極めて難しいものだった。その最たるものが障害物。四足歩行のロボットや、ヤクルトおばさんが乗っている電動カートの極小版など、多様な形の配達ロボットが開発されている。だが都市部には、高い階段、デコボコの野道、駐車禁止を示す警告板、道路の端にある違法駐車の車などが多い。ロボットにとって都市の道は「ジャングル」同然だ。Mobinnはこんな都市部を自由に歩き回る「障害物克服配達ロボット」を開発した。
その秘けつは――ゴム質で、形状が曲がったり伸びたりする方式の車両だ。誰もが想像してきたものであり、漫画の中でもしばしば登場した。チェ代表はこのアイディアを聞き、2018年の社内スタートアップ選別大会に挑戦した。だが、この時、現代自動車の役員たちは嘆いた。採点表には書かれたのは「現実性の欠如」だった。
チェ代表は、階段を上る実験を繰り返した。
「安全装置といっても、工事現場の安全ヘルメットがすべてでした。とても怖かったです。(ロボットが)倒れるのが恥ずかしくて、誰もいない夜明けだけ実験しました。そうして徐々に自信がついて、昼間にも出てマンションにも行って実験しました」
ロボットに10個以上の荷物が詰めるようにするための厳しいプロセスが待っていた。車輪と胴体を4つの連結軸でつなぐ「4節連結」にしてみたが、構造が複雑になったうえ4つのモーターの価格も無視できないほどの額になってしまった。悩んだ末、鐘のように荷台を吊るす設計を適用した。こうすれば、重心を前に誘導させながら、水平を維持できる。重力を利用するため、動力装置を別途付ける必要もない。ジャージャー麺や、ちゃんぽんを配達しても、器の外に絶対に漏れないという水平状態を保つという説明だ。
さらに、ロボットはこうした機能を応用し、製品を玄関前にスライディングするように降ろす機能も備えた。これを「積載物自動伝達技術」と命名して、特許を出願した。韓国の消費者たちの大部分が、宅配・配達を頼んでおきながら家にいないという点を考慮した設計という説明だ。通常の配達ロボットの場合、消費者が家のいない場合には荷物を渡す方法がないため、人が来るまでぼんやりと待たなければならない。
上下に分離された荷台は、それぞれの注文者の家庭に同時に配達することも可能だ。市販されているチキン箱12個を入れることができる大きさである。
チェ代表は開発前の段階で、実際の配達ライダー企業を運営する社長と配達員7~8人にインタビューし、配達時に必要な事項を記録し、機能として取り入れた。
「現在、街中の配達ロボットの大部分では、注文者がマンションの出入り口まで行き、商品を引き取る必要があります。ただ、配達ロボットと有人配達の間に違いがあってはダメだと思います。消費者が、ロボット配達なのか有人配達なのか知る必要はありません。ロボット配達によって、かえって不便さが増えるのなら、誰がそんなものを利用するでしょうか」
残念だが、今の配達ロボットは消費者たちにこうした不便さを与えてしまっている。ならば、配達ロボットは拡大できないのだ。
チェ代表は来年、分社したのち、8月ごろに概念実証に進む予定だ。他の配達ロボットのPOCとの相違点は「険しい場所を選択した」ということだ。「Mobinn」は建設から10年以上経った集合住宅を対象に実施する計画である。
チェ代表によると、今の配達ロボットがテストを受ける場所は、主に平地とつながった大学のキャンパス、公園型集合住宅に限定されていた。築10年以上の集合住宅では、歩道などがすべて狭く、地上に駐車場が設置されている。難易度を論じる水準にも満たない。
「全国の1万6000カ所の団地のうち75%(約1万2000カ所)が築10年以上であり、歩道と車道が混在していて予測が難しい要因が多くなります。このような場所でテストしてこそ、本物の配達ロボットといえます。今回のPOCを無事に終えたら、2023年から実質的なサービスが可能になるはずです」
チェ代表はこう見通した。
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