現場ルポ
韓国では最近、「ガッセン」 「ミラクルモーニング」 という言葉がよく使われる。神を意味する「ゴッド(God)」と「生」の合成語で、いい加減に過ごす時間がない「とても勤勉な神」という意味だ。ガッセンの一例、「ミラクルモーニング」は1日の日課が始まる2~3時間前に起床して運動、読書など自己啓発をする時間帯を指す。
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オンラインコミュニティやSNSには、最近の「2030世代」(20~30代)を中心に自己実現と成功のために熾烈に生きていくという「認証」が溢れている。
――就活生のパクさん(26)。1時間単位で自身の活動を記録する。パクさんが加入した勉強会は計5つ。仮想時間、運動時間、読書時間、勉強時間、携帯使用時間。それぞれコニュニティで認証する。パクさんは「時間を無駄遣いしないことを誰かに確認してもらいたい」と語る。
――仕事と就職を並行するイさん(25)。自らを「ガッセン中毒」だと表現する。イさんは職場生活も就職勉強も思うようにいかない時、度々「ミラクルモーニング」を試みる。イさんは「何でもかんでも“しなければならない”という不安を持つと『ガッセンラー』になる」という。
――会社員ファンさん(30)。この3カ月間に実践していた「ミラクルモーニング」をやめた。夜型人間なのに、午前5時に起きてジムに通っていたのだ。「他人に後れを取るのではないかと思って始めたが、私のペースを見つけることがもっと重要だと気づいた」そうだ。
オンラインコミュニティやSNSには、最近の「2030世代」(20~30代)を中心に自己実現と成功のために熾烈に生きていくという「認証」が溢れている。実際、SNS上に「ガッセン」や「ミラクルモーニング」と検索すると、それぞれ3万3000件と102万件の掲示文を確認できる。
ただ、熾烈に生きることそのものが一つの文化として定着してしまえば、青年期にまた新たな強迫観念や不安をもたらす恐れがあるという指摘が出ている。
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当初、ガッセンという概念が生まれた背景は、新型コロナウイルスなどで社会的不安感が高まったことと関連するという分析がある。
Googleトレンド検索語統計によると、「ガッセン」や「ミラクルモーニング」という単語の言及量は、新型コロナが長期化し始めた2021年3月から数百件以上に急増した。それ以前の期間には多くても10件程度だった。
ソウル大社会学科ソ・イジョン教授は「新型コロナの長期化、産業環境の変化、高齢化などによって、若い世代は社会経済的に負担が大きい世代となった」とみる。こうした状況で若い世代がそれぞれ不安を減らそうと生み出した自力救済が「ガッセン」である、と分析した。
専門家はまた、他人との比較、強迫観念から始まるような自己啓発への執着は、危険だとも指摘する。本当に必要なのは、同調心理による自己規制よりも、自ら耐えることのできるレベルの計画の方だからだ。
檀国大心理学科イム・ミョンホ教授は、ガッセンに対する強迫観念を、他者に後れを取ることを恐れている状態、即ち「フォモ(FOMO=Fear of missing out)」現象のひとつと解釈した。
青年には「ガッセン生活集団に自分も属してこそ、未来がさらに明るくなる」という心理が作用している。将来、チャンスをつかめるかどうかに不安があり、それが恐怖心として表れる現象とみる。
イム教授は「自ら望んでの行動ではなく、強迫観念によるものだ。周辺に流されると、かえって不安が高まる恐れがある」と警告する。
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