韓国の70代俳優2人がハリウッドを制した。1947年生まれの俳優であるユン・ヨジョンが第93回アカデミー賞で助演女優賞を受賞したのに続き、今年は1944年生まれの俳優オ・ヨンスが、第79回ゴールデングローブ賞でテレビ部門の助演男優賞を受賞した。米最高峰の授賞式で、米国でない、しかもアジアの70代が相次いで受賞したことは前例がない。なぜこんなことが起こったのか。
映像業界では、ユン・ヨジョンに続くオ・ヨンスの受賞には、さまざまな要因が作用しているという分析がある。2人の俳優の演技力が、世界に通用するほど優れているのはもちろんだが、ほかにもふたつの要因が考えられる。一つは、世界の映像コンテンツ市場の流動化、もう一つはハリウッドにおける選定基準の改善だ。米紙ニューヨーク・タイムズは、オ・ヨンスの受賞について「最も飛躍的な結果」と述べている。
◇韓国映画ファンには周知の事実
まず、彼らの演技力だ。
ユン・ヨジョンは、オスカー賞となった映画『ミナリ』に出演する前から、韓国国内で演技力の高い俳優の一人に数えられていた。昨年初めの『ミナリ』公開当時、韓国映画界では「ユン・ヨジョンはいつも通りの演技をした」という話だった。海外では、この作品でユン・ヨジョンの演技が絶賛されたわけだが、長年、彼女の演技に慣れ親しんできた韓国の映画ファンにとって、それは周知の事実にすぎなかった。
オ・ヨンスは、ユン・ヨジョンほど大衆に知られていた俳優ではなかった。ただ、演劇ファンの間では以前から演技力は称賛されてきた。米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)のドラマ『イカゲーム』で、彼は演技であることを忘れさせるぐらい「オ・イルナム」というキャラクターを熱演して見せ、好評を得た。「イカゲームの名セリフ」の中で彼のセリフがとりわけ多かったことは、それほど彼の演技力が高かったということの裏付けだとの見解もある。
「韓国俳優が持つ才能はすでに世界的な水準に達しており、ユン・ヨジョンとオ・ヨンスの演技力はその中でも最高水準だ。いつ賞を受賞してもおかしくないほどのレベル」。韓国のある制作関係者はこう評価した。
◇時代の変化、勢いに乗るKコンテンツ
ただ、2人が単に、演技力だけで賞を手にしたといえるわけではない。たとえ演技の質が高くても、出演作品が世界中の観客・視聴者に届かなければ、適切な評価を受けるのは難しい。そこで他の要因として挙げられるのは、新型コロナウイルス感染拡大後のOTT時代の始まりと、Kコンテンツの世界的な広がりだ。
韓国人移民の話を描いた映画『ミナリ』が注目された背景には、その1年前にカンヌ国際映画賞とアカデミー賞を総なめにした映画『パラサイト』の影響が大きい。こうした基盤に立ったうえで、世界中の観客がユン・ヨジョンの演技に注目することができたということだ。
『イカゲーム』の世界的ヒットには▽『パラサイト』と『ミナリ』の相次ぐ受賞があり▽新型コロナ感染拡大でOTT時代が浸透し▽韓国映画・ドラマをいつでも見ることができる環境が整った――ことが背景にあるというのが業界関係者らの共通認識だ。
韓国の映像配給を手掛ける関係者は次のような見解を示している。
「最近、グローバルコンテンツ市場が、国単位ではなくプラットフォーム単位で再定義されている。国ごとのコンテンツ流通への障壁は事実上なくなっている。こうした状況のなかで、韓国の映像コンテンツがどれほど踏み出しているのか。それを受賞の実績がよく表している」
◇多様性へハリウッド改善
ハリウッドは近年、「政治的公正(Political Correctness)の実現」をスローガンに、多様性を最大限に確保するという方針を掲げている。この点も2人の受賞に影響を与えているようだ。
「白人たちの祭典」。これまでハリウッドの授賞式、特にアカデミー賞とゴールデングローブ賞はこんな不名誉な名で呼ばれていた。こうしたなか、2014年のアカデミー賞では、黒人監督(スティーブ・マックイーン)が制作した映画『奴隷12年』が、史上初めて作品賞を受賞し、映画祭の改革に乗り出した。昨年の監督賞に中国人のクロエ・ジャオ監督、助演男優賞に黒人のダニエル・カルーヤ、さらに助演女優賞にアジア・韓国人であるユン・ヨジョンが受賞したことも、この流れの延長線上にあるようだ。
オ・ヨンスの受賞も、ゴールデングローブ賞の質改善の意図が反映された結果とみるのが一般的だ。ゴールデングローブ賞はアカデミー賞と同じく白人のためのイベントだと批判を受けながらも、昨年まで改善する姿勢を全く見せないどころか、最悪の危機を迎えた。
ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)での人種差別的な組織構成、候補者選定における人種差別、協会の各種不正疑惑、米女優スカーレット・ヨハンソンに対する運営側のセクハラ暴露が相次ぎ、結局、世界中の映画業界関係者がゴールデングローブ賞を集団ボイコットしたのだ。
ようやくゴールデングローブ賞は改善の意思を表し、その動きの一環として、テレビ部門の助演男優賞にオ・ヨンスを選んだ――という解釈ができる。
昨年、ユン・ヨジョンが、米開催授賞式の助演女優賞を総なめにしたにもかかわらず、ゴールデングローブ賞は彼女に賞を与えなかった。
今年は、オ・ヨンスが受賞したテレビ部門の助演男優賞だけでなく、主演女優賞にも「史上初」の用語が使われた。トランスジェンダー女性俳優であるミカエラ・J・ロドリゲスが受賞したのだ。トランスジェンダーの俳優がゴールデングローブ賞で賞をとるのは史上初めてのことだ。
ある映画業界関係者は「もちろん俳優オ・ヨンスの優れた演技が最大の選定基準であったはずだ。映画祭や授賞式は見た目以上に、非常に政治的なイベントであるため、ユン・ヨジョンやオ・ヨンスの受賞に関しても、近ごろのハリウッドのこうした意図がまったくないとは言えない」と解説する。
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