
「8月までで店を閉めます。何とか2年間やってきましたが、もう無理です」――韓国・光州で居酒屋を営む事業者は、苦労して育てた店舗の廃業を決断した。物価高騰に加え人件費負担が重なり、経営はコロナ禍の最中よりも厳しいという。設備投資をして備品も新調したが、いまや廃業費用すら重荷となっている。
韓国では2024年の1年間で廃業した小規模事業者が約100万人に達し、統計開始以来最大を記録した。事業開始に平均8900万ウォン(約8891万円)が必要とされることを考慮すれば、総額で89兆ウォン(約8兆111億円)もの小規模事業経済が「蒸発」したことになる。
2025年も事態はさらに深刻化している。国内外の不安要因と内需低迷が続く中、小規模事業者の体感景気は過去最悪の水準を更新し続けている。廃業者数が再び100万人を上回るのは確実視されている。
小規模事業者の相次ぐ廃業は、個人の経済的失敗にとどまらず、韓国の産業全体の競争力低下に直結するとの懸念が高まっている。
原因の筆頭は景気低迷と内需不振だが、次いで「人件費負担」が“引き金”として指摘されている。
2024年には、平均で1人あたり約2500万ウォン(約250万円)の債務を背負って廃業した計算になる。雇用にも連鎖的な影響が及び、店で働いていた従業員の大量離職につながっている。
宿命のように高騰を続ける最低賃金も、経営の首を絞めている。2025年の最低賃金は時給1万30ウォン(約1003円)で、初めて1万ウォン台に突入。小規模店舗にとっては「心理的限界線」を超えたとの見方もある。
中小企業中央会が実施した調査では、小規模事業者の86.7%が「収益性の悪化と売り上げ不振」を廃業の原因と答え、そのうち49.4%は「人件費上昇」が主因と答えている。
特に、従業員を雇っていた業者は大きな影響を受けており、例えば、週20時間勤務の従業員1人を雇えば、わずか2年間で月15万ウォン(約1万5000円)の追加支出が必要となる構造だ。2017年から比べると、最低賃金は55%、金額にして3560ウォン(約356円)も上昇している。
こうした背景から、小規模事業者の中には「時間を分けて雇う超短時間アルバイト」や「従業員を持たない一人経営」にシフトするケースも増加。2024年には週15時間未満の超短時間労働者が174万人を超え、過去最多を記録した。従業員を持たない1人自営業者も422万人に達した。
ソウル市麻浦区で衣料店を営む67歳の女性は「コロナのときも何とか乗り越えたが、人件費にはもう耐えられない」と語り、「助けてくれる家族がいなければ、廃業するしかない」と打ち明けた。
小規模事業者団体は「最低賃金を上げるなという話ではなく、実情を考慮してほしい」と訴える。小商工人連合会のソン・チヨン会長は「今の水準は頭数を意識した結果であり、小規模店舗の実態を反映していない」と強調し、業種別適用の必要性を訴えている。
専門家からも同様の声が上がる。中央大学のイ・ジョンヒ教授は「小売業や飲食業のように5人未満の事業所が多い業種では、今の最低賃金は過剰だ」と指摘し、業種別の平均賃金などの実態調査を通じた客観的データの収集が不可欠だとした。
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