
韓国コスメを使ったエステという「未知の領域」に、米村耕一さん(52)は足を踏み入れることになった。その胸中には、ふたつの思いが交錯した。
「乾燥」「しわしわ」「シミが目立つ」状態から決別すれば、「小ぎれい」「ピリッと」「すっきり」「しっとり」「さわやか」という印象を周囲に与えられるようになる。そうすれば、人に見られることに抵抗がなくなり、自信にもつながる。仕事への向き合い方も、より積極的になるだろう。
でも、本当にエステに効果はあるのだろうか。美容に関する情報には、宣伝文句がはんらんしている。「おススメ」と書かれた化粧品や器具をそのまま信じても大丈夫なのだろうか。自分から情報にアクセスするという姿勢がなければ、言われるがまま施術を受けることになる。「手つかずのまま」にしておいた方が良いのではないか――。
期待と不安を抱きながら、米村さんはガウン姿になり、「銀座メンズサロンMATHIS(マティス)」の施術室のベッドに横たわった。
耳を澄ませば、音楽が聴こえてくる。眠りを誘うような旋律ではなく、リズムのはっきりしたロック調の曲に思えた。
◇IPL
エステティシャンの重信聡美さんは、米村さんの顔の状態を改めて確認した。
「目の下まで毛が来ていますね。鼻の上の毛ですが、脂が詰まっていますね。鼻と頬の脱毛をすれば、きれいになると思いますよ」
ひげが濃いということが気になっていた米村さんは「それは何か貼り付けてパッと剥がす方法ですか?」と問い直した。だが、この段階で紹介されたのは、それではなかった。
「IPLという光で徐々に目立たなくしていくというものですね。バリッと剥がすのもあるのですが、それだと根本的に解決しません」
IPLとは「Intense Pulsed Light(インテンス・パルス・ライト)」の略。キセノンランプから発せられる強い光を皮膚に照射すると、メラニンのある細胞やヘモグロビンに吸収されて熱が発生する。毛根や毛乳頭にダメージが与えられ、1~2週間後に抜け落ちる――。施術は数秒で終わるうえ、レーザー脱毛よりも痛みが少ないとされる。ただ1回だけでは不完全で、効果を実感できるようになるまでに4~5回繰り返す必要がある。
「IPL?」。米村さんは固まった。「だんだん、じわじわと弱めていくという感じですか?」。こんな問いかけに、重信さんは大きくうなずいた。

◇クレンジング・吸引
施術がスタートした。
米村さんの顔にスチーマーで発生させた蒸気が軽く吹き付けられる。泡立った白濁色のクレンジング材が顔全体に塗られ、その泡で皮脂を浮き上がらせるようにマッサージが施される。
目と鼻の穴、口以外はホイップ状にした洗顔料が塗られる。数分間のマッサージのあと、フェイシャルスポンジですべてふき取られた。
このプロセスで毛穴の汚れがきれいになるという。
次に、毛穴洗浄のための鼻専用ピーリング剤が塗られ、浸透させるという手順が進められた。
米村さんの顔にはあごの方からスチームが軽く吹き付けられている。
事前のカウンセリングの際、米村さんは重信さんから「洗顔は33度以下のお湯で」と勧められていたこともあり、このスチームについても尋ねた。
「やはり33度以下ですか?」
サウナのような温かさがあり、33度には思えなかったからだ。
「もうちょっと温度は高いです」。こう口にしたあと、重信さんは次のように説明した。
「スチームであれば問題はありません。皮膚の温度を高めることが、必ずしも良くないわけではありません」
ここでも米村さんは納得していない様子だ。「顔に当てるのが良くない?」
「そうですね。高い温度のお湯で洗えば、美容液成分が全部流されてしまいます。免疫が下がってしまうのです。もとからある肌の美容液成分というものは、一度洗い流してしまうと、次に作られるまで、もとに戻らないのです」
この状態で10~15分間、待った。
やや肌が柔らかくなったように見える。

次に持ち出されたのが、吸引機。顔の表面に浮き出た物質を吸い取るのだ。
吸引機のガタガタという音が鳴り響き、施術室の静寂は打ち破られた。ぽっつ、ぽっつという小さな音とともに、顔の表皮にある物質が次々に吸い込まれていく。皮脂だ。「そんなに多くないですね」。それでも試験管は白濁色になっていた。
この段階で、すでに顔色が明るくなったように見える。
同時に、ヒゲが浮き出た。

◇ピーリング
次はピーリング。顔に乗っている頑固な角質を除去する施術だ。「STP(乳酸ピーリング)」の液体がハケで顔全体に塗られていく。
「乳酸」は比較的、分子が大きく、皮膚の浅いところで作用するため、肌への刺激・負担が小さいとされる。肌の弱い人向きの「やさしいピーリング」とも称される。
それでも酸度の高い液体が塗られたため、米村さんは「少しピリピリする」とつぶやいた。
これでさらに10分置いた。

ヒリヒリ感を和らげるため中和剤を顔に付着させ、顔全体に広げる。皮膚が酸性に傾いたため、それを元に戻すのだ。
その後、フェイシャルスポンジでふき取る。この「フェイシャルスポンジ」は今回のエステには頻繁に登場する。
ホットタオルを顔に乗せ、丁寧にふき取る。不安げな米村さんに重信さんは「これでお肌が整いました。つるっとした感じですね」と言葉をかけた。
「まな板の鯉ですね。何をやられているのか、まったく感覚がありません」。米村さんは言葉少なだった。
(つづく)
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