今年に入ってフランス全土がストライキとデモで苦しんでいる。マクロン仏大統領が新年の演説で「2023年は年金改革の年」と明らかにした後、強行意思を曲げないためだ。年金改革ができなければ、国民に支給する年金額を減らすしかない、というのが大統領の考えだ。
実際、フランスにおける年金の財政状態は深刻な水準だというのが年金諮問委員会の判断だ。今年から赤字を出し、その幅が毎年国内総生産(GDP)の0.5~0.8%に達すると見通した。最大3兆円ほど増える赤字を国家が補填しなければならないということだ。
仏政府はこれを解決するため、現行で62歳の年金受給開始年齢を2027年63歳、2030年64歳まで引き上げる内容を骨子とした年金改革案を出した。より長く保険料を払って年金を100%受け取る時期を遅らせ、基金の枯渇を防ぐというわけだ。反発を懸念して年金上限額を現在の最低賃金の75%から85%に引き上げて支給額を増やすことにしたが、それでも世論は冷ややかだった。
国民の70%近くが年金改革案に反対している。そのうえ12年ぶりに統一戦線を組んだ8つの主要労働組合が今月7日、大々的なストライキとデモを予告している。「マクロン人気」も3年で底をついた。
◇政界は「票」を意識
フランスの「今日」は、韓国が直面することになる「明日」になり得る。昨年就任したユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が年金を労働・教育と共に3大改革課題として掲げているためだ。
実際、年金財政の未来が不安なのはフランスだけの問題ではない。韓国保健福祉省の国民年金財政推計専門委員会が1月27日に発表した財政推計値を見れば、すぐわかる。
国民年金法による5年ぶりの推計により、国民年金の予算消耗時点は2055年。直前(2018年)における展望より2年早まった。国民年金の収入より支出が多くなる収支赤字時点も、2042年から2041年に繰り上げた。
チョン・ビョンモク財政推計専門委員長も「年金改革が遅れれば遅れるほど、未来の若者世代の負担が増えるだろう。年金改革の必要性を示している」と診断した。
しかし、ユン政権の年金改革推進ロードマップはますますこじれていく雰囲気だ。
先月末に予告されていた国会年金改革特別委員会(年金特別委員会)の草案公開が1カ月間延期され、最初から改革の動力が失われるのではないかという懸念が出ている。特に来年、総選挙を控える状況では、年金特別委員会傘下の民間諮問委員会がまとめた年金改革草案をもとにした、具体化すべき国会議論が遅々として進まないという悲観論も広がっている。
35年間の国民年金の歴史の中で、制度改革を成し遂げたのは1998年と2007年のたった2度だけ。ムン・ジェイン(文在寅)前政権の時も関連合意案を作ることに失敗した。
年金改革では、保険料率引き上げ幅と受給年齢引き上げの可否などを盛り込まなければならない。だが、票を意識した政界が国民の顔色だけをうかがう間に、改革の「ゴールデンタイム」を逃す可能性が高くなったわけだ。
◇日本の年金改革
日本で2004年、年金改革を果敢に推し進めた小泉純一郎首相(当時)のリーダーシップがクローズアップされている。
韓国より先に超高齢化社会に入った日本は、2002年から公的の年金が赤字を出して「より多く払って、少なく受け取る」年金改革が避けられなくなった。
当時、小泉首相は野党の反対を押し切って国民を説得することに成功した。だが、人気のない改革を推進した代価は厳しかった。
同年実施された参議院選挙で、政権与党は大敗した。にもかかわらず小泉首相の決断は年金の財政安定化に寄与し、20年余りが過ぎた現在、改革の模範事例として、日本の取り組みが挙げられるようになった。
これからはフランスと韓国の時間だ。
そのような意味で「奇跡はない。富を創出できなければ配るお金もない」と一貫した主張で年金改革の緊急性を説いているマクロン大統領の歩みは注目に値する。
ユン大統領も「難しい改革を大胆にやり遂げる」という意志を表わし、年金改革の円滑な推進の必要性を再確認している。政府と政界がどのように応え、成果を出すのか見守るべきだ。【MONEYTODAY チェ・ソクファン政策社会部長】
(c)MONEYTODAY