韓国の中小企業に勤めるAさんは妊娠中だ。最近、チーム員たちと一緒に企画案を整理し、午後8時まで勤務した。妊婦は、時間外労働(延長勤務)や夜間労働(午後10時以降)が法的に禁止されている。チーム長は「しんどかったら帰りなさい」と言ってくれたが、人事考課に不利になるかと思い、気軽に退勤できなかった。
大企業チーム長のBさんは、従業員らが次々育児休暇を取り、最年少の新入社員と2人で仕事をしている。30代の女性従業員2人は出産・育児休暇中、40代の男性従業員は子どもが小学校に入学して育児休暇を取ったためだ。会社に人員補充を要求したが「3人は難しい、1人だけなら可能だ」という返事だった。
韓国政府が少子化克服のため、仕事と育児が両立可能な社会を作ると叫んでいるが、現実は容易ではない。
政府が出産・育児を助けるための制度を作っても、その制度が現実に定着するためには企業の経営方法や雰囲気が変化する必要があるためだ。理想的な解決法は妊婦だけでなく全従業員が残業をしないよう会社が仕事の量や期限を調整し、従業員が育児休暇を使っても人員運用に問題がないよう採用に余裕を持たせることだ。
しかし、韓国企業はこれまで、効率的な人材管理と生産性向上などに焦点を合わせてきたのが事実だ。1997年の通貨危機から始まり、2008年の金融危機、2012年の南ヨーロッパの財政危機、2020年の新型コロナウイルス感染による実体経済の停滞など、絶え間ない内外の突発的な要因に、生存と成長を最優先の目標にはできなかった。この過程で内部構成員らは長期的な観点から人生を計画する余裕はなく、無限の競争に追い込まれるしかなかったのだ。
こうして前だけを向いて走ってきたものの、世界最低水準の少子化国家という汚名を着せられてしまった。実際、昨年の韓国の合計特殊出生率(女性1人が一生産むと予想される子どもの数)は0.72人で、史上最低値を記録した。統計庁によると、2020年から出生児数が死亡者数より少なく、人口が自然減少し始め、2040年には全体人口の3人に1人が65歳以上の高齢者になる見通しだ。2072年には国民2人に1人が高齢者で、幼少年層(0~14歳)の割合は6.6%に過ぎない。
このような人口ショックに驚き、政府も少子化対策作りに頭を悩ませている。何より政策を再点検しながらも、企業の参加に期待をかけている。共働き夫婦が57%に達し、企業が動かないと出産率を高めるのが難しいからだ。
少子高齢社会委員会が今月中に発表すると予想される総合対策にも、出産奨励企業を対象にした税制優遇などが盛り込まれるようだ。一部ではESG(環境・社会的責務・企業支配構造改善)評価に含ませるべきだという主張も出ている。
政府が企業の参加を誘導するのはポジティブな変化だが、企業自らの認識変化も切実に求められる。若い人口が減れば、企業が採用する従業員も、物を売る消費者も共に消える。企業の生存と成長が人口にかかっているわけだ。社内出産奨励政策と企業文化革新はコストではなく未来に対する投資だと認め、発想を転換しなければならない。【MONEYTODAY チョン・インジ記者】
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