労働者に有利な側面がある――包括賃金制は、経営側にこう映るという。
包括賃金制の改革あるいは廃止が、経営上の困難を引き起こす可能性は高くない。ただ、改革・廃止に先立って、実態を正確に把握し、慎重に実施してこそ摩擦が少なくなる、と考える。
この制度であれば、賃金に超過手当が含まれるため、一定時間の延長、夜間、休日勤務をしても別途の手当は発生しない。逆に言えば、該当時間ほど勤務をしない場合でも、決められた手当を受け取ることができるというものだ。
包括賃金制や固定OT制(overtime・超過勤務手当=延長、夜間、休日勤務を区分せずに一定額の超過手当を定額で支給する制度)を採択している一部大企業の場合、労働者が延長勤務を1件ごとに算定するよりも、多くの賃金を受け取っている場合が多い。
労働時間の短縮でも賃金が減らず、労使が労働時間短縮の迂回(うかい)路として利用する傾向があった。
経済団体のある関係者は次のように打ち明ける。
「大企業の場合、多くが、実際の労働時間は包括賃金制や固定OT制で合意した場合より少ない。包括賃金制が消えれば、賃金がそれだけ減ることもあり得る。ムン・ジェイン(文在寅)前政権時代に包括賃金制を廃止しようとしたものの、うまくいかなかったのは、固定OT制を採択している大企業生産職労組の反対のためだったという話もあった」
一部労働者は、労働時間を一つ一つ計算して超過勤務手当を支払えば、包括賃金制での支給額よりも少なくなる可能性があるわけだ。
◇経営者側「耐えられる」
このため、経営者側は「包括賃金制が廃止されても、経営上の困難を心配しなければならないほどではない」と口をそろえる。
これは中小企業の状況も同じだ。中小企業中央会が3月29日から4月7日まで中小企業539社を対象に実施した「労働時間制度改編に対する中小企業意見調査」結果によると、回答企業の35.8%が包括賃金制廃止による影響が「ない」とし、「耐えられる」という意見も32.5%あった。「耐え難い」という回答は31.7%に過ぎなかった。
韓国経営者総協会のある関係者は「包括賃金制を採用していても、合意した時間以上の労働をすることになれば、これに対しては追加手当を支給しなければならない。この制度を維持するならば、現場での悪用を厳格に取り締まることが必要だ」と指摘する。
一方、制度が急激に変化すれば、労使間の摩擦が起きかねない。包括賃金制の廃止で賃金の総額が減ることになれば、賃上げ要求が浮上しかねないためだ。
ある経営者は次のように危惧する。
「包括賃金制や固定OT制はすべて、労組との協議を通じて決めたことだ。廃止されるならば再び協議をしなければならない。ただ、、このプロセスで不必要な摩擦が発生する可能性がある」
(おわり)
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