2024 年 7月 22日 (月)
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ソウルの平壌冷麺老舗、工事現場の中での“孤立”営業

  現場ルポ  

先月6日、「通常営業」の立て看板を置いて商売を続ける「乙支麺屋」©news1

再開発工事が進むソウル市中区笠井洞(イプチョンドン)。大半の店舗が移転・廃業するなかで、唯一、「通常営業」の立て看板を置いて商売をする店がある。「乙支(ウルチ)麺屋」。ソウルで“平壌冷麺ベスト3”に数えられる老舗だ。周囲の建物には撤去のための足場用パイプが設置され、黄土色の遮蔽幕が張られている。孤立する平壌冷麺の老舗に、いったい何が起きているのか。

◇味と伝統を兼ね備えた「平壌冷麺の老舗」

乙支麺屋は1985年に商売を始めた。場所は地下鉄3号線乙支路3街駅5番出口前に位置する。

その味の歴史はさらに十数年遡る。いまの店主、ホン・ジョンスク氏の両親が1969年、京畿道(キョンギド)漣川(ヨンチョン)で開店した冷麺屋が原点だ。

そこから独立した長女が中区筆洞(チュング・ピルドン)に「ピルドン麺屋」を、二女が「乙支麺屋」をそれぞれ開業した。両親の店も1987年、京畿道議政府(ウィジョンブ)に移り、“議政府系冷麺”という新たな系譜が始まった。

このうち、乙支麺屋は、40年近い歳月を経て、味と伝統を兼ね備えた「平壌冷麺の老舗」として、メディアでもしばしば紹介されるようになった。

ところが近年は「老舗の味」ではなく、別の話題でメディアの注目を集めることになる。

◇再開発と「生活文化遺産」

2017年、乙支麺屋が含まれる区域の再開発計画が明らかになった。区域内の建物が撤去され、そこに地上20階規模のオフィスビルが建設されるというものだ。地元の「ハンホ建設」グループを中心とする施行主体は同年4月にはソウル市の事業施行認可を受け、区域内の建物所有者と補償交渉を進めて既に「2019年下半期に撤去」で折り合っている――という話だった。

だが、この計画に対して反対世論が巻き起こった。乙支麺屋は、ソウル市によって保存価値のある「生活文化遺産」に指定されており、「行政側に問題がある」という批判の声が上がったのだ。

批判にさらされたソウル市は2019年、「生活文化遺産に指定された建物を原型のまま保存する」として、いったんは事業を全面中断。ところが翌2020年になって「老舗店舗の所有者が新たな建物への入店を望み、原型保存に反対している」を理由に一転、撤去と再開発推進と宣言した。オ・セフン(呉世勲)市長も、都心の再開発を強調し、再開発事業に拍車がかかった。

先月6日、「乙支茶房」の入り口には休業を知らせる案内文が貼られていた©news1

◇多くが移転・廃業

区域内の店舗は次々に移転・廃業の手続きを進めた。中区庁関係者によると、既に乙支麺屋を除くすべての建物の移転が完了し、建物の撤去も進められているという。乙支麺屋近くにあった「乙支茶房」にも最近、「当分休業します」という案内文が貼られた。ここは「ニュートロ(レトロ)ブーム」で注目され、2020年にはBTS(防弾少年団)が訪れて話題になったところだ。

乙支麺屋だけは立ち退きを拒否している。「撤去に同意した覚えはない」として、施行主体とソウル市中区庁を相手取り、借家人対策・補償などを巡る訴訟を起こした。乙支麺屋側は裁判所の判断が出るまで、現在の場所で商売を続ける方針だ。

中区庁関係者は「乙支麺屋を一方的に撤去するのは難しく、裁判所の判断に沿って対応を考える」との姿勢だ。

◇いまも続くにぎわい

ハンホ建設グループは4月5日、報道資料を通じて「今年下半期に着工」の方針を改めて明らかにした。その翌日正午、中区笠井洞を訪れると、再開発工事が急ピッチで進んでいる様子がうかがえた。

区域内のすべての店が門を閉じた状況でも、唯一、乙支麺屋はにぎわいを見せていた。冷たい食べ物が恋しい真夏でも、冷麺の旬である冬でもない。それでも店内は、20〜30代と見られる若い会社員から、白髪が目立つ老紳士まで多様な年齢層の客でいっぱいだった。入り口の前には10人余りの列ができていた。

撤去論争が続いている中でも、昼の営業時間の様子に変わりはないようだ。

©news1

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