
ユネスコ世界遺産に登録されているソウルの宗廟が突然、政治対立の舞台に引きずり出された。発端は、ソウル市が2024年10月末、宗廟近隣に位置する再開発地域「世運4区域」の高さ制限を現行の71.9メートルから最大141.9メートルへと緩和する都市整備計画を告示したことだった。
これに対し、大法院(最高裁)が11月6日にこの条例改正を適法と判断した。にもかかわらず、国家遺産庁など関係機関からの批判は止まっていない。10日にはキム・ミンソク(金民錫)首相が宗廟を訪問し、同じ日に与党・共に民主党は「オ・セフン(呉世勲)市政失敗タスクフォース(TF)」を立ち上げ、オ・セフン市長を集中的に非難した。宗廟は一気に政治的な渦の中心へと巻き込まれた。
これに対し、ソウル市は、世運4区域は文化遺産保護区域の外にあり、宗廟正殿からも500メートル離れているため、宗廟の景観を損なうものではないと反論している。
だが、こうした政治的攻防の裏で、実際にこの地域に暮らし、20年間にわたって再開発の停滞に苦しんできた土地所有者の声はかき消されている。世運4区域には現在、約140人の土地所有者がいるが、彼らの存在は議論の俎上にすら上っていない。
その1人である土地所有者の中年男性は「なぜ政治家たちは急に私たちだけを標的にするのか。文化財庁の高さ制限のせいで、土地所有者の3分の2が現金清算を選ばざるを得なくなった」と訴える。彼を含む一部の所有者たちは、今回の反対運動が「2026年の地方選挙を意識した政治的布石」だと冷ややかに見ている。
今回の議論では「歴史的価値の毀損」「政策撤回」「ユネスコの文化遺産指定取り消し」といったセンセーショナルな言葉ばかりが飛び交い、20年間苦しんできた住民たちの現実は「欲望」と一括りにされてしまっている。
批判は誰にでもできる。今求められているのは、「声の大きさ」ではなく、双方が向き合い、現実的な解決策を探る協議の場だ。政府とソウル市は早急に対話のテーブルにつき、深い議論を始めるべきだ。
宗廟を守るために「世界遺産影響評価(HIA)」の手続きを踏もうという主張も、世運4区域の開発を進めたいという立場も、それぞれ一理ある。だが、どちらが正しいかを「声の大きさ」で決める問題ではない。
仮に追加の評価が課されれば、事業費は増え、それに伴う債務負担は最終的に庶民にのしかかる。だからこそ、冷静さが必要であり、両者が一刻も早く対話を始めるべきなのだ。
宗廟や世運4区域は、政治的な実績づくりの材料にされてはならない。ソウルはそのように軽々しく扱われる都市ではない。この都市を動かす力は「強い言葉」ではなく「調整と仲裁」だ。【news1 オ・ヒョンジュ記者】
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