
韓国コスメが世界を席巻している。だが美容に無頓着な中年男性は、その価値をほとんど理解できていない。一方で、しわとシミを放置しながら年齢を重ねていくことには、小さな抵抗感もある。そんな中年男性が「韓国コスメの敷居」を跨ごうとすると、どうなるのか。ある男性の体験に同行した。【KOREA WAVE編集長 西岡省二】
◇K-カルチャーとともに急成長
「一般」という言葉が正しいかどうかわからないが、一般の中年男性から見れば、「コスメ」は遠い存在だ。そもそも「顔を手入れする」という発想はあまりない。何より、顔の手入れよりも、時間を費やしたいことがたくさんある。「いまさら外見にこだわってどうする」というあきらめの気持ちも強い。
一方で、自分たちの知らない世界で、韓国コスメは着実に存在感を高めている。K-ドラマや映画、K-POPなどK-カルチャーの浸透に伴って、化粧品・ビューティーケア製品も普及し、2024年には米国向け輸出で初めてフランスを上回った。
いったい、韓国コスメの何が良いというのか――。
筆者は2025年4月上旬、東京・銀座にある「銀座メンズサロンMATHIS(マティス)」を訪ねた。男性専用のエステティックサロンだ。韓国コスメを使った男性エステメニューがあると聞き、ここでの韓国コスメによる施術を取材することにした。
今回、体験してもらったのは、筆者が新聞記者だったころの同僚で、毎日新聞外信部副部長の米村耕一さん(52)。記者は勤務時間が不規則で人付き合いにおけるストレスが多く、肌のケアまで気が回るような人は多くない。特に国際報道に関わる米村さんの仕事は過酷だ。
コスメに縁遠い存在――こう思えたからだ。
その米村さんは韓国コスメによってどう変化するのか。それともしないのか。

◇「キメの細かい肌」とは
MATHISでわれわれを迎え入れたのは、ここのオーナーでエステティシャンの重信聡美さん。美容業18年、エステは14年のキャリアだ。米ニューヨークでヘアメイクを学び、その後、エステティシャンに転じた。「銀座SALON MATHIS」は2018年の開業だ。現在、男性美容オンラインスクール「improve」の代表も務めている。
カウンセリングからスタートした。
「何か美容とかしていますか?」。こう問われた米村さんは、ひと呼吸おいて口を開いた。
「基本的にしていません。ローションを使ったり使わなかったり……」
肌のチェックから始まった。米村さんの右手首の内側にマイクロスコープが当てられ、その状態がモニター画面に大きく映し出された。

皮膚の表面は、大小の細かい溝(皮溝)が網の目のように交差している。それに囲まれて四角形・三角形・ひし形のようになっている箇所が「皮丘(ひきゅう)」と呼ばれる。皮溝と皮丘の形が鮮明で、水分が十分に保たれている状態が「キメの細かい肌」と表現されている。
右手首内側の写真を指し示しながら、重信さんは次のように解説した。
「これが米村さんが持っている本来のキメです。この部分は洋服で守られているので、温存されています。しっかりしたキメですね」
同様に頬の皮膚の様子がモニター画面に大きく映し出された。米村さんは表情をこわばらせた。

「かなり違いますね。うーん、これは相当にガサガサ感がある」
画面を見ながら、重信さんがコメントした。
「気になるのが乾燥、シミ、しわですね。ガサガサ感だったり、ちょっと赤味があったりします。角質がたまり、水分と油分がうまく温存できなくなっています」
ここで重信さんが口にしたのが「肌のターンオーバー」という言葉。皮膚が新しく生まれ変わる仕組みを指す。
表皮は、角質層・顆粒層・有棘層・基底層で構成される。基底層で新しい表皮細胞が生まれ、徐々に押し上げられて角質細胞となる。古くなった角質細胞は、垢やフケとして剥がれ落ちる。正常な肌の場合、ターンオーバーの周期は、皮膚の場所によって異なるものの、おおむね4週間(28日間)といわれる。
ただ、乾燥、ストレス、紫外線、加齢、手入れ不足などにより、ターンオーバーが乱れると、この角質が剥がれ落ちたり落ちなかったりする。正常なターンオーバーが難しくなり、透明感や弾力が失われる。
これが「トラブル肌」だ。

◇洗っているのに汚れている
次に重信さんがスコープを当てたのは鼻だ。モニター画面には、黒ずみと毛もはっきり映し出された。
「でも毛はしょうがないのでは?」。米村さんが思わずこう口にすると、重信さんは「間引いていくことで、だんだん目立たなくすることができます」と返した。
黒ずんでいるものの正体とは――。
「皮脂ですね。タンパク質の汚れも混じっています。それらが酸化して黒ずんでいるのです」
次は右の頬の付近にスコープを当てる。「シミができています」
肌にシミができる最大の要因が紫外線だ。強すぎる洗顔や、シェービングによる摩擦の繰り返しもシミ(色素沈着)を引き起こす。米村さんはひげがやや濃く、剃り過ぎて、炎症も起こしているようだ。伸び切ったまゆ毛も気になる。
人の顔は、斜め45度のラインがきれいであれば、「ああ、すごく若々しい」という印象になるそうだ。
「頬のなかでも、光が当たる高い部分のヒゲを取り、まゆ毛を少しカットしてブローリフト(まゆ毛パーマ)して整えて切る。シミを薄くしていくだけでも、すごく若々しい印象になります」。こう勧められ、米村さんは力なく「なるほど」とつぶやいた。
一連のトラブルを、韓国コスメを使ってどう解決していくか。カウンセリングは次の段階に移る。
(つづく)
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